遠く、儚く。


裏話が全て筒抜けだったことを樹は知る由もない。

樹がいない隙に「お母さんもお一人で大変ですね〜!ご実家は遠いんですか〜?」とわざとらしく話しかけてくる笹木も気に入らない。

たまらず柚が言い返そうとするのを制止し、ご迷惑おかけしました…とだけ返す。

これが大人だ。
絶対…こんな低レベルな人と一緒になったりしない。

成瀬を刺激しようと喧嘩を売ったのに大した反応が返ってこなかったことに失望したのか、笹木はまたバックヤードに消えていった。



入院は必要ないとのことで、帰る準備をしていると樹がやってきた。もちろん笹木というおまけ付きで。

「柚もなるちゃんもお疲れ。びっくりしたよな…」そう言って樹が成瀬の頭を軽く撫でる。


「大丈夫…。」
「すみませんでした…ご迷惑おかけしました。」
「いやいや全然…大したことなくてよかった…。」
「食物アレルギーは死の危険性もあるので、お母さん次からはちゃんと見守っててくださいねぇ〜?」
「はい…。ご迷惑おかけしました…。」


最後まで嫌味を込めた発言……
成瀬の前でわざとらしく新見と親しげな姿を見せつける。

もちろん気分は良くなかったが、樹の前ではクールな様子で振る舞う。正直に言えばバックヤードから聞こえてくる笑い声が脳裏から離れない…。




その日から成瀬は明らかに樹から距離を取ろうとした。
夜に樹の家に行くことも、樹の治療も拒否するようになった。律と柚の世話に集中しなければ……ただただその思いだった。

柚のアレルギーのこともあって、成瀬はより一層過保護になった。それでも思春期真っ只中の双子の兄妹にとっては、それは面倒な過干渉に過ぎなかった。

通常の親子でもギクシャクして難しい時期なのに、姉という立場で2人の中学生を育て、かつ教育するというのは非常に困難だ。成瀬も双子の兄妹もストレスを溜め込み、会話も減り、家庭内の雰囲気は以前のようではなくなってしまった。

特に柚は塞ぎ込むようになり、成瀬がいくら気にかけて問いただしても答えてくれなくなった。深夜に帰宅することも増え、心配した成瀬が注意すると、反発した柚がさらに帰宅時間を遅らせるという悪循環に陥っている。

思春期なのだから仕方ない…普通の親であればある程度割り切って対応ができるのかもしれない。


成瀬は今まで双子に親がいないという負い目を感じさせまい…と過剰に親のように振る舞ってきた。外では自分のことをお母さんと呼ばせ、双子の授業参観の日にはわざと年を取ったようなメイク、地味な服装やアクセサリーをして、他の母親たちとの差を何とかして無くそうと躍起だった。

必死に親を演じてきた成瀬の立場としては、今この状況で親としての役割をどのように果たせばいいのか分からず頭は混乱するばかりだ。


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