遠く、儚く。
樹がベッドに成瀬を寝かせ、後頭部を保冷剤で冷やさせる。意識もしっかりし痛みもそれほど強くなさそうだが、顔には驚きと疲れが滲み出ている。
「なるちゃん…びっくりしたよね?大丈夫??」
「あ……うん…まぁ…」
「柚と喧嘩した?」
「喧嘩っていうか…まぁ最近いろいろあって…。」
「そうだったんだ…。しばらく会えてなくて避けられてるのかなって…思ってた。」
「別にそんなこと…」
「そっか…。柚がまだ泣いてるからちょっと話してくるよ。いい??」
「あぁ…なんだか面倒なことに巻き込んじゃってごめんなさい…。」
「何でそんなこと言うの…面倒なんかじゃないよ?」
ちょっと休んでて…と成瀬の頭を撫でて樹が部屋を出ていく。柚はベッドで頭から布団を被ってわんわんと泣いていた。樹が部屋のドアをノックしてゆっくりと柚の部屋に入っていく。
「ゆーず。そんなに泣いてどうしたの…?」
「私が…私が突き飛ばしたの!」
「なるちゃんを??」
「こんなことになるなんて思ってなかった……」
「大丈夫大丈夫。怪我自体はそんなに酷くはなさそうだよ。」
「お姉ちゃんに嫌われたらどうしよう…?!」
「なるちゃんはそんな人じゃないよ。」
「絶対…絶対お姉ちゃん怒ってる。。嫌われた…!」
「大丈夫だから…一回落ち着こう?」
樹が優しく語りかけ柚の話を聞く。
今日2人に何があったのか…最近の家族関係について……
思春期で親のような存在である成瀬に反発心を抱くのは至極当然のことだ。
「気持ちは分かるよ…。僕もそういう時期があったしね。でも…なるちゃんはゆずのこと本気で心配してたと思う。」
「そんなこと…そんなこと分かってるよ!!」
「じゃあ何で…?その気持ちが嫌だった?」
「.嫌…だよ!だってお姉ちゃんはお母さんじゃないもん!!!お母さん気取りでずっと私たちのことばっかり優先して!!」
「柚たちのことを優先するのは…なるちゃんが大人だからだよ。」
「でも…でも!!!私のせいで…お姉ちゃんは……」
言葉にならないやるせなさが涙と嗚咽に混じる。
柚がただ単に思春期だから成瀬に反抗しているという訳ではなさそうだ。
「柚のせいで?何か問題があった??」
「……」
「ん??」
「樹先生のせいだよっ!!!あの日…私がアレルギーになった日!!!」
「え……?」
「バックヤードで…他の看護師さんたちとみんなでコソコソお姉ちゃんの噂話してたじゃん!!あれお姉ちゃんに全部聞こえてたんだよ?!?!」
「……まじかよ……。」
「お姉ちゃんは……私たちのせいで…青春も恋愛もできなかった!!今も……今もだよ?!私たちのせいで!!」
「そんなことない……そんなことないよ……!2人がいなかったら私は生きてこられなかった!!」
柚がわんわん泣きじゃくる声を聞いて、耐えられなくなった成瀬が部屋に入ってくる。柚を抱きしめて、成瀬も一緒に泣く。