野いちご源氏物語 四三 紅梅(こうばい)
大臣(だいじん)様のご長女に付き添っていた真木柱(まきばしら)の君(きみ)は、内裏(だいり)から紅梅(こうばい)大臣(だいじん)邸(てい)にお下がりになった。
女御(にょうご)様のご様子を報告するついでに、おかしそうにお話しになる。
「先日、若君(わかぎみ)が内裏で宿直(とのい)をいたしましたでしょう。朝になって退出する前に、女御様のお部屋に挨拶(あいさつ)に参ったのです。着物からとてもよい香りがしましてね。私たちは若君が焚(た)きしめた香りだろうと思ったのですが、お越しになっていた東宮(とうぐう)様がお気づきになったのですよ。
『匂宮(におうのみや)の香りだ。あちらで宿直していたのだろう。私には飽(あ)きてしまったのか』と恨(うら)んでごらんになりましたからおかしくって。あなた様が若君に、匂宮様のところへ上がるようにおっしゃったのですか。若君ははっきりとは申しませんでしたけれど、お手紙か何かを届けさせなさったのでしょうか」

「あぁ。匂宮様は梅がお好きだから、東の離れの紅梅をお届けするように言ったのだ。ちょうど花(はな)盛(ざか)りで特別に美しくてね。匂宮様からの移(うつ)り香(が)はさぞかしすばらしかっただろう。内裏のめかしこんだ女房(にょうぼう)たちでもあれほどよい香りは焚きしめていない。
薫(かおる)の君(きみ)の香りはさらにすばらしいものだよ。わざとらしいお香(こう)の香りではなく、体から自然とすばらしい香りが漂(ただよ)うのだ。さすがは源氏(げんじ)の君(きみ)のご子息(しそく)でいらっしゃる。同じ人間と言っても血筋(ちすじ)でまったく違う。それと同じように、同じ花と言っても梅は他の花とはまったく違う。あれほどの香りを何世代にもわたって伝えているのだから、匂宮様がお好きなのももっともだ」
何のお話をなさっていても、つい匂宮様が気になって話題に出してしまわれる。
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