再び縁結び
24ー覚悟
[小春視点]
静かな夜。月が綺麗に輝いていた。
隣に座っているのは東雲先生だ。あの後私達は、1回別れた。だが春斗が蒼夜君を見つけてしまい、蒼夜君の家族の元へ行ってしまった。そして、私は1人になった。
下駄を履き慣れていないため、少し足が痛んでしまった。ここは花火は角度的に見れない休憩場だ。少しでも鎮める為、椅子に腰を下ろした。すると、彼も久々の甚平に疲れたようで無言で隣に座ってきた。
隣の彼とは気まずい空気。
「...まさか、春斗が東雲先生と本当に指切りしちゃうとは」
脳裏に浮かぶ光景は、彼が戸惑いながらも小さな手に手を絡めたものだった。心の中で彼に約束しないでと訴えかけたつもりだった。椅子に置いてある拳をギュッと強く握る。痛みだけのことを考えれたら良いのに。
「子どもって約束破られたら悲しいじゃないです。それで流れで...」
「...約束...か」
月を眺めながら呟いた。足を少し振り上げ、下駄を真下に落とした。視線を上から下へ移動させると、親指の辺りが赤く滲んでいた。擦れて熱を持った痛みにじんじんと襲われる。心の痛みがこの傷よりも軽かったらよかった。
顔を上げ、隣の彼を見る。一瞬、目が合うがすぐ逸らされてしまった。なにかいいたいことがあるのではないかと思った。
「もし、桜庭さんが子どもだったら守れない約束をする大人のことって許せないですか」
彼の低い声。まるで、彼は自分のことを許せないみたいだ。
「許せない子が多いのではないでしょうか。それって楽しみを奪われるってことでもありますし」
「...ですよね。あの、桜庭さん」
「どうかしました」
「月が綺麗ですね」
彼は笑顔でそう言った。だがその表情はどこか寂しさも感じる。わからない。彼は昔と変わらずポーカーフェイスだ。
「...私には見えないです」
ぽつりと零れた言葉。無意識だった。
「...ですよね」
2人で甘い言葉を囁き合っていた時期もあったのは事実だ。それはもう過去の事。
お互い、傷つけない為にも此処から立ち去ろう。そう決めて立ち上がった。
「あっ...」
無意識に足に体重をかけてしまったようで、靴擦れを起こしていた事を忘れていた。
「さ、桜庭さん。大丈夫ですか」
彼に支えてもらいながら、また椅子に座り直した。彼は跪き私の足をじっと見る。
「...東雲先生、そんなに見ないで...ください」
「これは、簡単な応急処置をしておいた方がいいです。絆創膏...あれ」
彼は甚平のポケットに手を突っ込み、絆創膏を探し始めた。だが、なかなか見つからないみたいだ。
「東雲先生。そこまでしてくれなくてもいいですから」
「いや...持ってきたはずだったんですが、あ、車の中にならあります。すぐ近くの駐車場に止めてますので桜庭さんはここで待っててください」
彼はそう言い残すと暗闇の中へと消えてしまった。冷たくあしらうことも出来たはずだ。だが、人の好意を無下にしたくなかった。
「おお、桜庭さんっ」
別の人の声が聞こえ、辺りを見渡す。すると正面の暗闇から飛竜先生がこちらへ来た。
「...春斗がお世話になっております」
「こちらこそ、春斗くんの元気さには癒されますぞ」
「いつも本当、元気なんですね」
彼の笑顔は暗闇を切り裂く太陽のようなものだった。東雲先生が陰なら、陽は飛竜先生だ
飛竜先生が急に立ち止まった。何事かと、視線を追ったら、私の足元をじっと見つめていた。
「...あの、足大丈夫ですかな。なんかすごい赤く腫れて...。俺のポケットの中に絆創膏ならありますぜ」
彼はポケットから絆創膏を取り出し私に差し出した。東雲先生が車まで取りに行っているから、受け取っていいのかわからない。
「...ありがたいんですが、でも」
「あぁ、すみません。屈んで絆創膏つけるだけでも一苦労ですよね。俺がつけますから」
飛竜先生も教師として気を遣ってくれている。そんな事を考えていたら、目の前の彼は両膝を床につき、ペリッと白紙から絆創膏を剥がした。
「...そ、そのくらい自分でできますから」
その手を制ししたが首を振った。
「いえいえ。このくらいなんたってことありませんから。気にしなくても大丈夫ですから。はっはっは」
「桜庭さん...お待たせしまし」
まさか、こんなタイミングで。見られたくなかった。結斗の顔は青ざめていた。その右手には救急箱が。私は、痛みなんか忘れて勢いよく立ち上がる。
「...あの、違うのっ。これは」
「...いえ、教師ですから」
東雲先生は低い声でそうとだけ言い、後ろを振り向き暗闇の中に歩き始めた。私はその背中を追いかける。飛竜先生を避け、全力で思い足を引き摺る。
「待って、結斗っ。ちがう、違うの」
叫ぶと、彼はその場に立ち止まった。だが、浴びせられた言葉は鋭いものだった。
「...もし誰かに聞かれていたら、すぐ広がります。それとも教師と保護者と言うことをお忘れですか」
彼の顔は見えない。だが、口調でわかる。本気で怒っている時の彼の声と言うことを。
「そんなこと、今は関係ないじゃない」
自分でも驚くくらい叫んだ。彼が壁を作っていることが悲しくて、苦しい。この感情、何処へと埋めましょうか。あるいは棄てるか、遣るか。周りから聞こえてくるのは、祭囃子ではなく風の音達。
「関係ないって。散々、自分から保護者と教師だからって距離をとってたくせに。あの子に期待させないでって言ってたくせに」
ーあの子
そうだ。彼は最近、春斗の名前をまともに呼んだことがない。それで、頭に血が上った事もあったんだっけ。彼は本当に"春斗の父"として自覚しているが、責任を取れないがために名前を呼ばず距離を置いているのか。
「...それは全部結斗が浮気したのが原因でしょ」
「...だから、あの時説明しようとしたのに小春が勝手に出ていくって譲らなかったかったから」
「止めてくれなかったじゃない」
「それはー...」
結斗が何か言いかけた時、空からバンっという音が響く。漆黒の虚空に一瞬だけ五彩が塗られた。
お互い目が合う。何をしていたのだろう。
「...すみません。東雲先生、取り乱してお恥ずかしいところを見せてしまいました」
「...僕の方こそ。申し訳ございませんでした」
彼は頭を下げた。
「...あの、東雲先生。もし今度、時間取れるなら、大人としてしっかり話し合いたいです」
私が急に言い出したことに最初彼は驚いていた。春斗にも真実を話さなければならなくなる。それは、近くても遠くてもいつかは絶対に来る。彼は、目を閉じ、深呼吸をする。
「...桜庭さんがそうしたいなら拒否はしません」
その声はあまりにも穏やかで先程まで互いに衝突していたのが嘘のようだ。
静かな夜。月が綺麗に輝いていた。
隣に座っているのは東雲先生だ。あの後私達は、1回別れた。だが春斗が蒼夜君を見つけてしまい、蒼夜君の家族の元へ行ってしまった。そして、私は1人になった。
下駄を履き慣れていないため、少し足が痛んでしまった。ここは花火は角度的に見れない休憩場だ。少しでも鎮める為、椅子に腰を下ろした。すると、彼も久々の甚平に疲れたようで無言で隣に座ってきた。
隣の彼とは気まずい空気。
「...まさか、春斗が東雲先生と本当に指切りしちゃうとは」
脳裏に浮かぶ光景は、彼が戸惑いながらも小さな手に手を絡めたものだった。心の中で彼に約束しないでと訴えかけたつもりだった。椅子に置いてある拳をギュッと強く握る。痛みだけのことを考えれたら良いのに。
「子どもって約束破られたら悲しいじゃないです。それで流れで...」
「...約束...か」
月を眺めながら呟いた。足を少し振り上げ、下駄を真下に落とした。視線を上から下へ移動させると、親指の辺りが赤く滲んでいた。擦れて熱を持った痛みにじんじんと襲われる。心の痛みがこの傷よりも軽かったらよかった。
顔を上げ、隣の彼を見る。一瞬、目が合うがすぐ逸らされてしまった。なにかいいたいことがあるのではないかと思った。
「もし、桜庭さんが子どもだったら守れない約束をする大人のことって許せないですか」
彼の低い声。まるで、彼は自分のことを許せないみたいだ。
「許せない子が多いのではないでしょうか。それって楽しみを奪われるってことでもありますし」
「...ですよね。あの、桜庭さん」
「どうかしました」
「月が綺麗ですね」
彼は笑顔でそう言った。だがその表情はどこか寂しさも感じる。わからない。彼は昔と変わらずポーカーフェイスだ。
「...私には見えないです」
ぽつりと零れた言葉。無意識だった。
「...ですよね」
2人で甘い言葉を囁き合っていた時期もあったのは事実だ。それはもう過去の事。
お互い、傷つけない為にも此処から立ち去ろう。そう決めて立ち上がった。
「あっ...」
無意識に足に体重をかけてしまったようで、靴擦れを起こしていた事を忘れていた。
「さ、桜庭さん。大丈夫ですか」
彼に支えてもらいながら、また椅子に座り直した。彼は跪き私の足をじっと見る。
「...東雲先生、そんなに見ないで...ください」
「これは、簡単な応急処置をしておいた方がいいです。絆創膏...あれ」
彼は甚平のポケットに手を突っ込み、絆創膏を探し始めた。だが、なかなか見つからないみたいだ。
「東雲先生。そこまでしてくれなくてもいいですから」
「いや...持ってきたはずだったんですが、あ、車の中にならあります。すぐ近くの駐車場に止めてますので桜庭さんはここで待っててください」
彼はそう言い残すと暗闇の中へと消えてしまった。冷たくあしらうことも出来たはずだ。だが、人の好意を無下にしたくなかった。
「おお、桜庭さんっ」
別の人の声が聞こえ、辺りを見渡す。すると正面の暗闇から飛竜先生がこちらへ来た。
「...春斗がお世話になっております」
「こちらこそ、春斗くんの元気さには癒されますぞ」
「いつも本当、元気なんですね」
彼の笑顔は暗闇を切り裂く太陽のようなものだった。東雲先生が陰なら、陽は飛竜先生だ
飛竜先生が急に立ち止まった。何事かと、視線を追ったら、私の足元をじっと見つめていた。
「...あの、足大丈夫ですかな。なんかすごい赤く腫れて...。俺のポケットの中に絆創膏ならありますぜ」
彼はポケットから絆創膏を取り出し私に差し出した。東雲先生が車まで取りに行っているから、受け取っていいのかわからない。
「...ありがたいんですが、でも」
「あぁ、すみません。屈んで絆創膏つけるだけでも一苦労ですよね。俺がつけますから」
飛竜先生も教師として気を遣ってくれている。そんな事を考えていたら、目の前の彼は両膝を床につき、ペリッと白紙から絆創膏を剥がした。
「...そ、そのくらい自分でできますから」
その手を制ししたが首を振った。
「いえいえ。このくらいなんたってことありませんから。気にしなくても大丈夫ですから。はっはっは」
「桜庭さん...お待たせしまし」
まさか、こんなタイミングで。見られたくなかった。結斗の顔は青ざめていた。その右手には救急箱が。私は、痛みなんか忘れて勢いよく立ち上がる。
「...あの、違うのっ。これは」
「...いえ、教師ですから」
東雲先生は低い声でそうとだけ言い、後ろを振り向き暗闇の中に歩き始めた。私はその背中を追いかける。飛竜先生を避け、全力で思い足を引き摺る。
「待って、結斗っ。ちがう、違うの」
叫ぶと、彼はその場に立ち止まった。だが、浴びせられた言葉は鋭いものだった。
「...もし誰かに聞かれていたら、すぐ広がります。それとも教師と保護者と言うことをお忘れですか」
彼の顔は見えない。だが、口調でわかる。本気で怒っている時の彼の声と言うことを。
「そんなこと、今は関係ないじゃない」
自分でも驚くくらい叫んだ。彼が壁を作っていることが悲しくて、苦しい。この感情、何処へと埋めましょうか。あるいは棄てるか、遣るか。周りから聞こえてくるのは、祭囃子ではなく風の音達。
「関係ないって。散々、自分から保護者と教師だからって距離をとってたくせに。あの子に期待させないでって言ってたくせに」
ーあの子
そうだ。彼は最近、春斗の名前をまともに呼んだことがない。それで、頭に血が上った事もあったんだっけ。彼は本当に"春斗の父"として自覚しているが、責任を取れないがために名前を呼ばず距離を置いているのか。
「...それは全部結斗が浮気したのが原因でしょ」
「...だから、あの時説明しようとしたのに小春が勝手に出ていくって譲らなかったかったから」
「止めてくれなかったじゃない」
「それはー...」
結斗が何か言いかけた時、空からバンっという音が響く。漆黒の虚空に一瞬だけ五彩が塗られた。
お互い目が合う。何をしていたのだろう。
「...すみません。東雲先生、取り乱してお恥ずかしいところを見せてしまいました」
「...僕の方こそ。申し訳ございませんでした」
彼は頭を下げた。
「...あの、東雲先生。もし今度、時間取れるなら、大人としてしっかり話し合いたいです」
私が急に言い出したことに最初彼は驚いていた。春斗にも真実を話さなければならなくなる。それは、近くても遠くてもいつかは絶対に来る。彼は、目を閉じ、深呼吸をする。
「...桜庭さんがそうしたいなら拒否はしません」
その声はあまりにも穏やかで先程まで互いに衝突していたのが嘘のようだ。

