あなた専属になります

二人だけの夜

「すぐに来てくれ。話がある」

その電話を受けて、私は急いで河内さんのマンションに向かった。

マンションの入り口に着くと、既に河内さんが外で待っていた。

「お疲れ様です」

河内さんに何を言われるかが不安だった。

でも私はもう心を決めていた。

何を言われても、逃げない。

* * *

部屋に入った後、私たちはソファに座った。

しばらくお互い何も話せないでいた。

重い沈黙が流れる。

「ごめん」

突然出てきた河内さんの言葉に驚いた。

「ちゃんと守れなくて」

その声は震えていた。

「いえ……」

私は河内さんの目を見つめた。

「私たちが一緒にいる限り、避けられない道だったんですよ」

「……そうだな」

「でも私は逃げませんでした。ちゃんと言えました」

河内さんの表情が少しずつ変わっていく。

「優美が何を言ったかは、父から直接聞いた」

「そうなんですね」

「ありがとう」

河内さんは今まで見たことがないほど穏やかな表情をしていた。

まるで重い荷物を下ろしたみたいに。

「でも、もう会社にはいられないかもしれません」

「例え何が起こったとしても、この関係は守り抜く。それは父にも言った」

河内さんの声に迷いはなかった。

「嬉しいです。でも河内さんがどうなるか心配で……」

「俺はもう何も心配してない」

河内さんが私の手を握った。

「心配だったのは、優美の気持ちだった」

「でも優美はちゃんとあの人に立ち向かった。俺はそれだけで前に進める」

その言葉に胸が熱くなった。

「どうなるかわかりませんが、借金はちゃんと返します」

「今、そんな話をするな……」

河内さんが苦笑いを浮かべた。

「すみません。ずっとそれが私の目標で……」

河内さんは立ち上がって、私を優しく、でも強く抱きしめた。

「金を稼いでる暇があるなら、俺のそばにいろ」

「……気持ちが揺らぎます」

「もう金のことはどうでもいい。二人の時間の方がはるかに大切だ」

河内さんは私をまっすぐに見つめた。

「真剣に言う。金はいらない。だから、ただ俺のそばにいろ」

「お前は俺の専属だ。誰にも渡さない」

専属……

あの日、ラウンジで出会った次の日に言われた言葉。

あの時から、すべてが始まった。

「私はもう、あなた専属ですよ」

私たちの想いは、この瞬間同じものになった。

「私はあなたを愛していて、あなたに愛されていれば、それでいいです」

もう余計な言葉はいらない。

何もかも隔てるものを取り払って、ただお互いの存在を確かめた。

「優美がいれば、何もいらない」

とても暖かい温もりに包まれて、胸が震えた。

お互い、もう二人しか見えない。

「河内さん、全部私にください」

「ああ。全部やる。俺の全てを」

その言葉が一時の迷いだったとしても、私は許せる。

たとえどうなっても、私は後悔しない。

この人と一緒なら──

* * *

朝がきて、柔らかく部屋の中を包み込んでいた。

隣では愛する人が無防備な顔で寝ている。

なんて幸せな瞬間なんだろう。

私は身だしなみを整えた。

そして静かに玄関に向かった。

マンションから出た後、

河内さんの連絡先を消した。

そして、早朝の静かな世界に吸い込まれていった。
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