あなた専属になります

決意表明

私はずっと気がかりだった事があった。

「河内さんのお父さんは今どこにいるのでしょうか」

河内さんはウィスキーのグラスを傾けながら口を開いた。

「子会社で社長をやってる」

「子会社にいるんですね」

「俺が追い出したからな」

私が行方をくらませた三年で、河内さんは復讐のようにお父さんを追いやった。

「私達が結婚する事はご両親に言ってないんですよね?」

「ああ、何も言ってない」

「私、河内さんのお母さんの事まだ何も知らなくて……」

河内さんは目を伏せた。

「母は学生の時に病気で亡くなっている」

「そうだったんですね……」

河内さんの過去をあまり知らない。

これから色々わかると思うけど、私とは全然違う人生だったんだろう。

お母さんが亡くなった後を考えると胸が苦しくなった。

「ちなみに、お父さんの働いてる会社はどちらでしょうか?」

河内さんに睨まれた。

「まさか……余計な事考えてないよな?」

「は、はい!ただ気になっただけです!」

その後渋々その会社のホームページを見せてくれた。

ここから割と遠いけど……

私はどうしても、また会いたかったんだ。

私一人の足で。

* * *

私は、その日、会社が終わった後その会社に向かった。

河内さんに秘密で。

既にアポイントはとってあった。

会社に着いて、受付で説明すると、会議室に案内された。

会議室で待っていると、暫くしてドアがゆっくり開いた。

そこには、あの日、あの会社の社長室にいた彼より、少し雰囲気が衰えた男性が入ってきた。

彼は私を一瞬だけ見た。

「久しぶりだね。また会えるとは思っていなかったよ」

河内さんのお父さんは会議室の上座にゆっくり座った。

「ここに来たってことは息子の事でか?」

「はい」

彼はため息をついた。

「君がいなくなった後の三年間、あいつは人が変わったかのように仕事に打ち込んでいたよ。」

「そうだったんですね……」

その三年間の河内さんの事を考えると罪悪感で胸が痛む。

「そして、とうとう私は立場を失った」

河内さんのお父さんは少し俯いていた。

「こんな事になるなら、あの時余計な事をしなければよかったと後悔しているよ」

あの時、何も言われなかったら私はどうなっていたんだろう。

そのまま河内さんと幸せになれていたのだろうか……。

「君はまた息子と関わっているのか」

「はい、私、彼と結婚しようと思ってます」

あの日、この人と会った時も怖気ず自分の気持ちを言った。

今回は私からの挑戦状。

「そうか」

彼は特に何も感じていないようだった。

「反対されないんですか……?」

「もう会社はあいつのものだ。立場は私の方が弱い。何も言う事はない」

上とか下とか……

私は河内さんの家族としての彼と話したいんだ。

「肩書は抜きにして、私はお伝えしたかったんです。」

彼はどこか遠くを見ていた。

「ここまで来る子に今更反対もないだろう。それに……あいつをここまで追い詰めたのは私だからな」

河内さんのお父さんは立ち上がった。

「息子を幸せにしてやってくれ」

それを言って、彼は会議室から出て行ってしまった。

その時私の瞳から涙が一粒流れた。

嬉しいはずなのに、何故か悲しい。

複雑な心境だった。

でも、ちゃんと伝える事ができた。

その後私が会社のビルを出ると……

やっぱり河内さんがいた。

「やっぱり来ていたな……」

「よくお分かりですね……」

その後車に引きずられるように乗せられた。

「なんで一人で行った」

河内さんは怒っている。

「河内さんに言ったら絶対反対するじゃないですか!」

「当たり前だ!あの後お前いなくなっただろ!?」

運転が荒くなる。

「でもこうしないと自分の中でちゃんと終われなかったんです!」

あの逃避行の結末はこうしたかった。

認められなくても、私の口で伝えたかった。

「で……どうだったんだよ」

「『息子を幸せにしてやってくれ』って言われました」

河内さんは驚いていた。

「そんな事言ったのか……」

「はい、私も想定外の言葉に驚きました」

河内さんはだんだん落ち着いてきた。

「だから、私は河内さんを幸せにしないといけないんです……」

新たな決意表明。

「期待している」

そう言った河内さんの表情はどこか穏やかだった。
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