再会は小さなぬくもりと一緒に
何事もなく進行する会議室のざわめきの中で、彼の声だけがいつまでも甘く残って、仕方がない。

──いつまで心が揺さぶられるのだろう

とっくに忘れたはずだった。
彼の顔も、仕草も、声も──恋心も。
かつての私の初恋は、とっくの昔に忘れたはずだった。


だけど心が掻きむしられたように甘く疼くのは、彼を忘れていない証拠なのかも知れない。



会議後、私はさっさと席を立とうとしたが、先輩に捕まった。
「咲倉さん、伊賀上さんを席にご案内してくれる?」


彼はこのプロジェクトが外部に発表になるまでの三ヶ月、ここ株式会社クリエイト・リングのオフィスに席を設けるらしい。

「はい、では事業部の方にご案内します」

私は全ての感情を押し殺して、彼を席へと案内する。
しばらく彼は私と同じ『都市開発事業部』──新たな商業施設などの企画を行う事業部 で共に働く予定。
動揺を顔に出してはいけない。

必死に隠す私とは違い、彼は涼しい顔をしている。
気づいているのかいないのか、それすらもわからないほど。

席に案内すると、彼は早速パソコンを立ち上げる。

「ではこれで失礼します」
ペコリと頭を下げると──彼はそっと耳元に顔を近付けて囁く。


「よろしくね、莉佳子」


彼の甘い声を振り払うように、一瞬だけ微笑むと、足早にその場を後にした。
いつまでも鳴り止まない鼓動が、煩いぐらい響いていた。



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