再会は小さなぬくもりと一緒に
それを察した人が「知り合いなんですか?」と。
「実は親同士昔から交流があったので」と原さんは答えた。

「そういえば……」
 山下さんが、何気ない調子で言った。
「昔は、美月と晴和くんの間で、ああいう話もあったよね」

周りの空気が、一瞬止まった。

「彼が札幌に行くので無くなりましたが」
原さんが、穏やかに笑う。

「ご縁がなかったということですよ」 

はっきり“縁談”だと、そう言われたわけじゃないのに……意味は十分すぎるほど伝わった。
私のグラスを握る手が震える。

晴和さんは、何も言わなかった。肯定も、否定も。

 
会食が終わり、店を出たのは夜遅くだった。
タクシー呼ぶと言われたが、歩きたいんでと断り、駅まで歩いていく。

一人で歩いていたが、後ろから駆け足で誰かが近づいてくる。振り向くと晴和さんだった。
そのまま何気なく二人で、距離を空けて歩く。
 銀座の灯りが眩しくて、足元だけが妙に冷たい。

「……さっきの話」
意を決して、私が口を開く。

「初めて聞きました」
「……そうだね」

彼の返事はそれだけだった。

「私は聞いたことがない」

責めるつもりはなかった。ただ、事実として確認はしておきたい。
彼が『札幌に行くから』縁談が流れたということは……その話が出たのは大昔ではなく学生の頃だろう。
──その頃、私達は付き合っていたはずだ。
札幌行きが破談の理由なら『恋人がいる』と伝えて、事前に断っていないということになる。



「言う必要がないと思ってた」

静かな返事が、雑踏に紛れて響く。その言葉に胸がきゅっと縮む。

必要がない。
つまり私とは──将来を一緒に考えるのはムダなのだと。

それは分かっていた。見下されていたのはわかっている
はずなのに……改めて突きつけられると、痛い。


「……そっか」

それ以上、言葉が続かなかった。
もう関係ない話だ。そう言いきかせるしかない。


「ねぇ、ちょっと飲んで帰ろうよ」

駅の前、バーの看板前で彼が立ち止まった。

「いいです、今日は帰ります」
「ああ、うん」

それ以上、彼は何も言わなかった。
何も言わず距離を空けたまま、私は駅に向かって歩く。
二人の間を冷たい風が吹き抜けるような気がした。


──もう私は彼の将来に関係がない人だ。
それでも過去の私の恋が、悲鳴を上げている。


もうこれ以上一緒にいてはいけないのかも知れない。

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