一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
七章 シェアする食事の数だけ
 久しぶりにル・ポワンの店舗の前に立つと、胸がいっぱいになった。
 何ヶ月ぶりだっけ。最後に来たのが、三月のプレオープンのパーティーのときだったから、およそ三ヶ月。
 ということは、まだそんなに経ってないんだ。ル・ポワンを担当したのは、もうずいぶん昔のことに思えたけれど。

「やっと来られたねー!」

 案内された窓際のテーブルに着席すると、ますます気分が浮き立つ。今日はこのために、お洒落もしてきたのだ。
 事務所ではからかわれたけれど、アップの髪型も、品のあるワンピースも後悔は一片もない!
 私があまりにはしゃぐから、一希が苦笑した。一希だって、今日のジャケットはふだんより正統派。元がきれいな顔だからはちゃめちゃにキマっている。

「やっと、というほどでもないけど」
「でも、予約取るの大変だったでしょ? オープンしてから連日満席だって聞いたよ」
「廣瀬さんに融通してもらったから」
「設計者特典だ」

 小さく笑い合うと、グラスにきらきらと輝くシャンパンを注がれた。今日は、お料理も廣瀬さんにお任せらしい。

「一希、新プロジェクト受注おめでとう! お疲れ様でした」

 細やかな泡が立つシャンパングラスを乾杯のかたちに傾ける。そう、今日はお祝いなのだ。
 一希がずっと心血を注いでいた広島の、古い劇場の改修工事。
 国の登録有形文化財でもあるそこは、改修にあたってはいくつものハードルがそびえる難工事だ。
 一希はそれを昔取った杵柄で設計に取り組んでいたけれど、大日設計も話を聞きつけて改修提案をしていたのだった。
 しかも担当はあの、一希を嵌めた男。いけ好かないリングをしていた……ええと、なんて名前だったっけ。

「思い出した、西田だ。西田をやりこめたんでしょ? 私のほうがせいせいした!」
「陽彩、あいつには容赦ないな」
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