一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
二章 君を知るフレンチディナー
「吉見さん、シェ・ヒロセのアポ取れました。訪問前に打ち合わせしましょう」
「それ、必要あるの」
「へっ? これから提案していくのに、どう攻めるかをすり合わせるのは当然ですよね?」
「なら資料に書いといて。そこ、悪いけどどいてくれる? これから打ち合わせあるから。あ、資料は共有フォルダに入れといて」

 え、え、と間抜けな声が口をつくあいだに、私の席に別のノートパソコンが置かれた。設計部の所員がすまなそうにして私を見る。
 慌ててパソコンを閉じて席を立つと、すでに転職男は私のあとに座った所員と打ち合わせを開始していた。なんたる愛想のなさ。
 しかたなくすごすごと席を離れ、私は設計部のある三階から二階に戻る。
 いつもの先輩の横が空いていたので、そこに腰を落ち着けると、横からにやにやと笑われた。

「さしものおひよさんも、荒ぶってるね。吉見?」
「これが荒ぶらずにいられますか? 吉見さん、せっかくクライアントにアポ取れたのに、事前打ち合わせも必要ないって」

 先日、野添部長に振られた新規プロジェクトの件だ。老舗レストラン、シェ・ヒロセが展開する新業態の店舗。
 既存のチェーン店の新規出店とは異なるのだから、提案前にじゅうぶんなリサーチが必要なのはいうまでもなく。
 プロジェクトのメンバーが提案の方向性を共有するのだって、いたって当然のはず。……なのに。

「資料だけくれって、追い出されました。あれが大日設計のやりかたなんでしょうか?」
「さあね。まあ、あれだけの大手から来たら、うちのやりかたがまだるっこしく感じてもおかしくないね」

 大日設計といえば、国内の四大設計事務所の一角を据える大企業だ。扱う建築物の規模も、うちの設計事務所とは天と地ほどに違う。
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