一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
 国内の主要なランドマークはもちろん、都内の競技場やコンサートホール、美術館に巨大な複合施設など、誰もが一度は目にしたことのある建物の設計はたいていが大日設計だ。
 抱える所員の数だって、うちの事務所員の数倍は優に超える。
 たしか、新卒が希望する会社ランキングの上位に、例年名前を連ねてもいたはず。
 そんなところから来たなら、レストラン一軒の規模でいちいち打ち合わせをしていられないのかもしれないけれど。
 なんだか釈然としない。
 先輩が、手にしたアイスコーヒーをぐいっと飲み干した。

「あの男、飲みに誘っても『そういう行為、時間の無駄です』って断っているらしいよ。設計のやつら、あいつとはやっていける気がしないって嘆いていたわ。おひよも難儀なのと組むことになったな」
「私もやっていける気がしませんよ」

 ぷしゅう、と空気が抜けるように私は机に突っ伏す。
 効率重視で、合理主義。
 愛想が悪く、人付き合いも悪い。
 それが吉見一希という男の、入社二週間でついた評判。
 当然だよね、と思う。

「あのひと、どうしてうちに来たんでしょうね」
「噂では、やらかし案件らしい。そんで大日に居づらくなって、転職したとか」
「そうなんですか?」
「気になるなら、本人に聞いてみれば?」
「いいです」

 私は即答して、アイスカフェラテを一気飲みした。
 あんな場面を目撃された相手でもある。
 センシティブになりかねない会話ができるとも思えない。
 アイスカフェラテはミルクがたっぷり入っているはずなのに、口には苦味だけが広がる。
 ふつふつと怒りが湧いてきた。
 こっちは、このプロジェクトにめちゃめちゃ気合いを入れている。一度断られたくらいで、営業が黙って引き下がると思ったら大間違いなんだから。
 タンッ、とプラカップをデスクに置いて腰を上げる。
 先輩が目を丸くした。
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