一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
 ともあれ設計部長の向かいに野添部長と座ろうとして、私はぎくりとした。
 真向かいに、効率男が座っている。
 主賓のひとりだというのに、彼だけは仕事中と変わらない顔だ。酔ったふうでもなければ、楽しそうでもない。

「お……お疲れさまです」

 返ってきたのは会釈だけ。
 それ以上会話の糸口も見つからないまま、誰かが注文してくれたビールが回ってくる。
 乾杯の合図で、申し訳程度に効率男とジョッキを合わせた。
 こっちは途中参加なので、場はあっというまに崩れる。野添部長も、あっというまに設計部長たちと歓談を始めた。

「急な誘いで悪かったね。こいつ、俺らがどれだけ飲みに誘っても、首を縦に振らないんだよ。今日やっと捕まえたものだから」

 宮根課長がしみじみと言う。

「脅されましたが」
「人聞きが悪いね、吉見は。俺はただ、お前がうちの面々と打ち解けてくれればと思ったんだぞ? それに放っておくと、お前はろくなものを食わないから」

 気安げな課長と反対に、周りはなんだかしらっとした空気が流れた。効率男よ、さては部内で浮いているのでは。
 ひとたびそう気づくと、営業の血とも私自身の生来の血ともいえないものが、むくむくともたげてくる。
 私は部長たちにお酒を勧め、新入社員に話題を振り、ときには営業の小話なんかも入れて場を盛りあげることに努める。
 そのかいあってか、和やかな雰囲気ができあがったとき、ぬっ、と目の前につぶ貝の旨煮が乗った小皿が突き出された。

「目白さんも食べたら」
「えっ、ええと、私より吉見さんどうぞ」

 出汁と醤油の香りが、ふわんと鼻先をくすぐる。
 つぶ貝のこりっとした感触を想像して、唾をのみこんだ。

「なんで。ぜんぜん食べてないのに」
「いえ、私はもうじゅうぶんいただいてるので」

 食べたい。でも食べられない。
 こめかみが引きつる。
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