一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
「……わかった、言わない。これでいい?」
「あ、うん。……ありがと。って、待って」

 勢いをなくした私の横を、効率男が話は終わったと言わんばかりにすり抜ける。また呼び止める。

「打ち合わせ!」
「いや、無理」

 とりつくしまもない返事に、六度目の惨敗を喫してしまった。
 しかも、無理って。
 断り文句が前回から端的かつパワーアップしてない? ちなみに前回は「営業って意外と暇?」だった。
 肩を落としてうつむくと、効率男がふり向いた気配がした。

「資料見た。コメント入れたから」

 えっ、と私が顔を上げたときには、すでに効率男はフロアから出ていったあと。
 これも一応、微々たるものとはいえ前進なのかな。
 うん、なんのすり合わせもできないよりはマシだよね。
 今になって、薄い唇に触れた手のひらが熱い。
 久々に達成感を覚えて席に戻ると、なにやら愉快そうな野添部長に手招きされた。



  
 野添部長に連れられて海鮮居酒屋の暖簾をくぐると、設計部の歓迎会は宴もたけなわだった。

「よっ、野添! おひよちゃんもいらっしゃい」
 設計部の(みや)()課長から赤ら顔で手招きされ、座敷に上がる。設計部の課長と野添部長は同期らしく、やり取りがいつもフランクだ。
 長テーブルには設計部のメンバーに囲まれて、設計部長と課長、それから今年入社したばかりの新入社員たちが並んでいる。
 皆、すでにほろ酔いのようだ。
 テーブルには空のジョッキの合間を埋めるようにして、刺し盛りや海鮮サラダ、アサリの酒蒸しなどが所狭しと並んでいた。
 オフィスの小洒落感に反して渋いチョイスは、設計部長の意向を反映したものに違いない。私は好きだけど。
 というかなんでも好きだけど。……美味しそうだなぁ。
 食欲をそそる匂いにもふらふらとするけれど、恒例の胃痛も同時発生だ。情けない。
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