一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
 吉見さんはうろたえる私など気づかない様子で紙袋を持ち直すと、歩きながら今日の議題について懸念事項を挙げていく。
 年内に着工して、完成予定は二月。レストランのオープンは来年四月。
 具体的な工事の中身に話が及ぶと、いよいよなんだという高揚感が湧きあがっていく。
 最初は、人付き合いが悪くて無愛想な吉見さんと、なんて上手くいく自信がなかった。
 まして、決して誰にも知られたくなかった秘密まで知られて。
 だけど今は、吉見さんと組めてよかったと心から思う。吉見さんの前だと、無理をしなくていい。偽らなくていい。
 さっきだって。電車に乗る前に寄ったチェーンの定食屋で、ためらわずに唐揚げもご飯も増量できたのは、一緒にいたのが吉見さんだったから。
 ……花梨ちゃんだったら、むしろ唐揚げもご飯も少なめにするんだろうなあ。ううん、そもそも唐揚げ定食になんてしなそう。
 間違っても大口なんて開けなくて、吉見さんと「私もうお腹いっぱいー」「じゃ、残り俺が食う」なんてかわいいやり取りをして――。

「……なに見てんの? 食ったばかりだけど、もう腹減った?」
「へっ!? ち、違うから!」

 ふいに顔を覗きこまれ、私はぎょっとしてのけ反った。思わず足が止まる。

「そう? 物欲しそうにするから、そうかと思った」
「吉見さんの中で、私のキャラってどうなってるの? いつも物欲しそうにしてるわけじゃないからね?」
「わかった。顔合わせ終わったら、なんか食う?」
「や、だから! ……食べる」
「ん」

 吉見さんが口元に拳を当てて笑いをこらえる。もう、その笑いを揶揄だとか(あざけ)りだとかに誤解することはない。
 だって、目が優しいから。素直にうなずいてしまうのは、そのせい。
 私だけが見つけたと思っていた、吉見さんの隠れたよさ。
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