訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる

プロローグ

「ねぇ、亜湖(あこ)ちゃん。3A席のお客様、すっごく素敵じゃない?」


定刻出発した福岡発羽田行きの国内線フライト。

ドリンク提供が終わり、クルー達がホッと一息つける時間帯になった時のことだった。

お客様提供用の飲み物が保管されているギャレーで、来栖亜湖(くるすあこ)は先輩である相沢円香(あいざわまどか)から内緒話をするようにこそっと小声で話しかけられた。

客室乗務員(CA)である2人は、飛行機の中で日々多くのお客様と接している。

お客様対応中はプロフェッショナルに徹しておもてなしをしているのだが、お客様の目が届かないギャレーではミーハー心が目を覚ます。

無理もない。

彼女達はまだ20代の女の子なのだ。

お客様でイケメンがいると、ついつい裏で盛り上がってしまうのはいつものことだった。


「なんていうか、雰囲気のあるイケメンよね! 顔がカッコいいのはもちろんだけど、オシャレでセンスもいいし、眼鏡も似合っててホントに素敵!」


相当にタイプだったようで、円香はうっとりとした顔をしている。

亜湖はお客様からオーダーされた飲み物の準備に手を動かしながら、顔だけ円香の方へ向けて「分かります。素敵ですよね!」と同意を示すように明るく微笑んだ。

「やっぱ亜湖ちゃんもそう思うよね! あーあ、彼女いるのかなぁ~。普通に考えたら絶対いるよね~。だってあんなカッコいいんだもん」

「どうでしょうね? あ、飲み物準備できたんで、私ちょっと持って行ってきますね!」

まだまだ円香は喋りたそうだったが、相槌をうちつつも、亜湖はお客様対応のために笑顔でその場を離れた。

そして予定通り、依頼されていた飲み物をお客様へ渡し終えてギャレーへと引き返す際。

ふと先程円香が言っていたことを思い出した。

 ……えっと、確か3A席のお客様だっけ?
< 1 / 204 >

この作品をシェア

pagetop