訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
あんなに「分かります!」と同意を示していたにも関わらず、実のところ亜湖はそのお客様をハッキリ覚えていなかった。

さっきはただ円香に話を合わせていただけだ。

ぶっちゃけイケメンに興味はない。

というか、お客様はあくまでお客様。

仕事だから接客しているだけである。


 ……でも円香さんの話はこの後も続きそうだからなぁ。ちょっと見ておこうかな。


ちょうど近くの席のお客様に応対していたこともあり、亜湖はビジネスクラスである3A席を通り過ぎる間際に(くだん)のイケメンをこっそり盗み見る。

男性はリラックスしながら席でコーヒー片手に何かの資料に目を通していた。

その顔立ちは横顔を見ただけでも非常に整っていることが分かる。

円香の話していた通り、ファッションやヘアスタイルもオシャレだ。

前髪を軽く流した、くせ毛風のゆるめのパーマは全体的に抜け感があり、なんともこなれている。

クラッシックなダークカラーフレームの眼鏡も髪型にマッチしていて、洗練された都会的な雰囲気の、そしてちょっとだけミステリアスな感じのする美形だ。


 ……黙ってても女が寄ってくるタイプ。女の扱いも上手そう。きっとなんでも器用にそつなく、スマートにこなす感じの人なんだろうなぁ。


心の中でそんな値踏みをしつつ、何食わぬ顔で亜湖は男性が座る席の横を通り過ぎた。

そのあとはお客様対応や着陸準備に追われ、結局円香と3A席のお客様について話すことはなかった。

だから亜湖もそんな出来事はすっかり記憶の隅に追いやっていた。


まさかそのお客様と今度はフライト以外の場所で出くわし、あんな変なお願いをされることになるなんて、この時は想像もしていなかった――。


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