訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
 ……だからこそ、無理してる分、心にイライラが溜まりがちなんだよね。毒吐きたい!

こんなふうに私がなってしまったのには理由がある。

それはズバリ家庭環境だ。

私の家は有力な政治家一族で、祖父は総理大臣経験者、父は現職の大臣という政界の重鎮だ。

それゆえ支援者や支持者を始めとした周囲の目を常に意識しなければいけない環境だった。

子供の素行が祖父や父の評価を落としかねない。

そのことを幼少期からこんこんと言い聞かせられ、厳しく躾けられた。

その結果が今の私である。

外面だけは完璧になってしまった。


「ふぅ、今日も書き出してスッキリした……!」

喫茶店に入ってオーダーを済ませるやいなや、無我夢中で『グチグチノート』に書き殴っていたのもようやく一段落。

私はノートをパタンと閉じると、すっかり冷めてしまったコーヒーにようやく口をつけた。

冷たくなってもここのコーヒーはやっぱり美味しい。

独特の苦味と芳醇な香りに心が凪いでいく。

『グチグチノート』に吐き出した後のコーヒーは格別だ。

その時、カランカランという小さなベルの音が静かな店内に響いた。

入口の扉が開いて、新たなお客さんが来店したようだ。

 ……こんな時間でもお客さんが来るなんて、やっぱり『珈琲ろまん』は根強いファンが多いのかな? 知る人ぞ知るって感じの喫茶店だもんね。

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