訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
このベルの音も昔懐かしい感じがして、ノスタルジックな気分になる。

この店内にいると、時間がゆったり進むような気するから不思議だ。

そんなことをのんびりと頭の中で考えていたのだが、途中で私は突如ハッとした。

 ……えっ、ていうか今何時!? 

時間を気にしていなかったけど、『グチグチノート』に向かっていたのは結構長かったと思う。

となると、もうかなり遅い時間なのではないだろうか。

慌てて腕時計を確認すると、入店してから1時間半――もう深夜1時を過ぎていた。

 ……ヤバイ、明日も朝から仕事だ!

明日は3便に搭乗予定で、夜は札幌泊のスケジュールである。

朝6時には起きなきゃいけない上に、泊まりの準備も必要だ。

こんなに遅くなるつもりはなかったのに、予想以上に心に色々溜まっていたらしい。

 ……早く帰って寝なきゃ!


急いでコーヒーを飲み干すと、私は会計を済ませて足早に『珈琲ろまん』を後にした。

あまりに慌てすぎて、そこに大切なものを置き忘れていることにも気づかずに――。


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