訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる

17. 最悪なタイミング

読書タイムを再開してどれくらい時間が経っただろうか。

いつの間にかリビングは窓から差し込むオレンジ色の夕日に染められていた。

日中に比べて室内が薄暗く、このまま本に綴られた文字を追っていれば目が悪くなりそうだ。

要さんも同じように感じたのかスッと立ち上がると、おもむろにリビングの電気を付けた。

「もうすっかり夕方だね。集中して俺の小説を読んでくれてたみたいだけど、2冊目は読み終わった?」

「まだ途中です。ちょうど半分くらいですね」

「1冊目より読むペース遅い感じがするけど、もしかしてそっちはあんまりだった?」

「そんなことないですよ。ただ……たぶんちょっと集中力が切れちゃったんだと思います。ほら、私もともと読書習慣ないですし!」

本当は“集中力が切れた”というより、“集中できなかった”という方が正しい。

でもそれをなんとなく口にできなくて私は誤魔化すように微笑んだ。

「集中力といえば、そろそろお腹空いたよね?」

「確かにそうですね。お昼から何も食べてないし空いてきました」

「夜はうちで一緒に食べない? デリバリー頼もうかと思うんだけど。今日ほとんど話せてないから、亜湖ちゃんともう少し一緒にいられたら嬉しいなと思って」

正直、なんだか胸がずっとザワザワしていて変な感じがするため、今日はもうお暇しようかと考えていた。

 ……なのに、そんな風に言われると嫌とは言えないってば。

もう少し一緒にいたいだなんて、要さんの口から飛び出したとは思えない女心をくすぐる言葉だ。

結局私は要さんからの提案を了承し、もうしばらくここに滞在することになった。



「こうしてテーブルの上に並べるとなんだか豪華に見えるなぁ」

「これはどれから食べるか迷っちゃいますね」

デリバリーを注文してから数分後。

届いたフードとドリンクを私達はダイニングテーブルに並べた。

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