訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
騒がしい胸の内をなんとか宥めて、私は心を落ち着かせる。


「……2冊目を読もうとしてくれるってことは、俺の書いたミステリー小説気に入ってくれた?」

「はい。忖度なく、率直に面白かったです。恋愛小説とは雲泥の差でした! 要さん、ミステリー小説に専念した方が絶対いいですよ。恋愛小説をすっぱり辞めたのは英断でしたね!」

要さんと書斎からリビングに戻りながら、私は自分の心の動揺を誤魔化すように、わざと明るい声を上げた。

要さんは「それは良かった」と朗らかに笑う。

私の態度を変には思っていない様子だ。

 ……ふぅ、焦ったぁ。それにしても本当にそろそろ恋愛コンサルは終了にした方がいいかもしれないなぁ。

ビシッとした指摘を求められている私が動揺していてはダメだ。

もう私と恋人ごっこするよりも、本物の恋人を作ってその女性と時間を過ごした方がいい。

そんなことを頭の中でぼんやり考えていたら、なぜか胸が急に苦しくなった。

鉛を飲み込んだかのように心が重い。

そんな状態でリビングに到着すると、このタイミングで読書の手を止めて少し休憩を挟もうという話になった。

私達はソファーに座ってコーヒーで一服する。

その際、ふと何かを思い出したらしい要さんが口を開いた。

「そういえば、年初に街中で相沢さんにバッタリ会ったよ」

「円香さんにですか?」

突然思いもよらない人物の名前が出てきたなと思い、私は話を促すように首を傾げる。

「そうそう。私服姿だったから一瞬誰か分からなかったんだけど、以前取材に協力してもらったし、それに亜湖ちゃんが仲良くしてる先輩だって話していて印象に残ってたからすぐに思い出したよ」

「そうなんですね」

「やっぱり制服で仕事してる人って私服になると印象変わるね。亜湖ちゃんに最初『珈琲ろまん』で会った時も、以前お世話になったCAさんだってすぐには思い出せなかったくらいだし」

当時を思い出したのか要さんの瞳が昔を懐かしむような色を浮かべる。

要さんは朗らかに目を細めているが、一方の私は先程以上に心が重くなり、さらにはなんだか胸がザワザワしてきた。

そんな他愛のない会話を挟んだ後、再び読書タイムに戻ったのだが、先程とは違って物語の内容がなぜか全然頭に入ってこなかった。


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