訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
手荷物の準備をしていた時に「あれ?」と、あるべきものがないことに顔が真っ青になった。

今すぐ取りに行こうと思っても、早朝だから『珈琲ろまん』は営業していない。

さらにタイミングが悪いことに、この日の私は仕事で札幌泊のスケジュールのため、自宅には帰れない。

どう頑張っても、最短で翌日の夜、仕事終わりにしか喫茶店を訪れる時間を取れそうになかった。

 ……その間にもし誰かに中身を見られたとしたら……最悪! 『珈琲ろまん』にもう二度と行けなくなっちゃう!

あんな心の中をぶちまけた赤裸々な内容、誰にも見られたくない。

そもそも誰かに見られる想定なんてしてないからこそ、あの毒づき具合なのだ。

最悪ではあるものの、『珈琲ろまん』のマスターに見られるならまだマシ。

考えうる限りの最悪の最悪は、私と付き合いのある仕事関係者の手に渡ることだ。

可能性は限りなく低いだろうけど、絶対にないとは言い切れない。

 ……仕事のこともそうだけど、同僚の個人名とかも書いちゃってるんだよねぇ。きっと誰の持ち物かなんてすぐバレちゃう。

そんな起こりうる様々なシチュエーションが頭を駆け巡り、私はこの2日間どうにも落ち着かない日々を過ごさざるを得なかったのだ。



「お先に失礼します。お疲れ様でした!」

同僚に挨拶を済ませると、私はいち早く職場を飛び出し、羽田空港発のエアポート急行に乗り込む。

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