訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
「葉山さん、どの作品観たいですか?」

「どれでもいいよ。来栖さんが観たいもので。……あ、これもダメな感じ?」

答え終えると同時に、葉山さんは自分の失態に気づいたようだった。

ピタリと静止し、窺うような視線を私に向ける。

 ……飲み込みは早いんだけどなぁ。

私が無言で頷くと、葉山さんは先程の指摘を思い出したのか、改めて答えを言い直した。

「俺はあのアクション系の洋画か、有名監督のヒューマンサスペンスか、小説原作のラブストーリーがいいかなって思うけど、来栖さんは?」

今度はバッチリだ。

ちゃんと自分の好み踏まえて提案しつつ、相手の意向も窺っている。

 ……こういう会話を通してお互いの好みを知るのは大事だもんね。

私はふむふむと頷きながら、提案してもらった映画の宣伝ポスターを眺めていく。

その時、ふと私はある文字に目を留めた。

「原作……『花山粧』……?」

葉山さんが候補に上げなかった作品のポスター内にその文字は記されていた。

私は隣に立つ葉山さんを見上げる。

「よく気がづいたね。そうそう、この映画は俺が書いた小説が原作なんだよ」

私のつぶやきを拾ったらしい葉山さんは、自慢するでもなく、アピールするでもなく、こともなげにサラリとそう言った。

「なんで言わなかったんですか!?」

「いや、別にあえて言うほどのことでもないしね」

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