訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
オーダーを受けてからサイフォンで丁寧に淹れられるコーヒーは最高に美味しい。

あまり混み合っていない静かな落ち着く空間だから作業にももってこい。

私のお気に入りスポットである。

そんな『珈琲ろまん』にて、合コン帰りで若干ほろ酔いぎみの私がなにをしているのかといえば……

コーヒーで一日の疲れを癒している。

……のではなく、テーブルの上にノートを開いて一心不乱に文字を書き綴っていた。


――『ウザイ、ウザイ、ウザイ! デレデレした顔でこっち見んな! 下心が丸わかりだっつーの!』

――『亜湖ちゃん、とか馴々しく呼ぶなっ! お前に名前呼びを許した覚えはねぇー!』

――『なーにが、実家太いよ、だ! お前のアピールポイントはそこかよ! ていうか口説く時に、許可なく髪とか、頬とか、手とか触んじゃねぇ! 初対面なのにキモすぎっ!』

――『こっちがニコニコして話に付き合ってやってたら調子乗りやがって! 言葉も態度も強引すぎ!』


ノートを黒々と染めているのは、所狭しと書き殴られた罵詈雑言の文字の数々。

外面は澄ました顔のまま、私は溜まりに溜まった心の内をひたすら吐き出していた。

このノートは誰に見せるわけでもない、ただ自分の感情を吐き出すためのものだ。

だから取り繕う必要もない。

普段は使うことのない汚い言葉遣いでも全然オッケー。

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