訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
さりげない気遣いに感謝しつつ、俺は広報担当の長嶺さんに先導されながらまずは一般向けのコースを見て回った。


「これはすごいですね。本当に飛行機の中にいるみたいな気分になります」

実機を模した設備で、エコノミークラスの座席に座り周囲を見渡す。

空席ばかりという点が実際とは違うが、座り心地や目に入る景色は本物さながらだ。

続いてビジネスクラス、ファーストクラスの座席も見学し、さらに飛行中に乗客が足を踏み入れることのないコックピットやギャレーなども見せてもらう。

許諾を取って記録用にスマホで写真も撮り、見学しながら頭の中で物語の展開をイメージする。

やはり実物を前にすると、より詳細に話を組み立てやすい。

「では続いて、会議室で現役パイロットと客室乗務員から仕事内容などの話を取材してもらえればと思います。本日パイロットは1名、客室乗務員は2名アサインしてます」

長嶺さんがそう言って案内してくれた会議室に入ると、中には制服姿のスタッフがすでに待機してくれていた。

挨拶しようとして、俺は一瞬目を見張る。

3名のスタッフのうち、1名が自分のよく知る人物だったからだ。

「花山先生、ご紹介しますね。こちらパイロットの藤間(ふじま)、客室乗務員の相沢と来栖です」

「……小説家の花山粧です。本日はよろしくお願いします」

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