訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
思いがけない巡り合わせに、俺は驚きから少し言葉に詰まりつつ挨拶を述べた。

 ……まさかここで来栖さんに会うとは。

JP航空は大手であるし、CAの人数も多い。

だからこそ、こんな偶然があるとは思ってもみなかった。

「花山先生ってこんなお若くてカッコいい方だったんですね! メディアに顔出されていないのでビックリしました! ねぇ、亜湖ちゃん? 藤間機長もそう思いません?」

「そうですね! 私も驚きました!」

「デビュー作から著書を拝読させてもらっていますが、僕もてっきりもっと年配の方なのかなと思ってましたよ」

木目調の横長テーブルを挟んで対面に着席し、取材対象の3名と向かい合うと、相沢さんという女性の言葉を皮切りにそれぞれが俺に対する驚きを次々と口にする。

制服に身を包み、きっちりと髪を纏め、華やかにメイクを施した来栖さんは、俺と面識があることを全く匂わせることなく、見事に他人行儀ににっこりと微笑んでいた。

その笑顔は、『珈琲ろまん』で最初に顔を合わせた時に向けられた、完璧に作り込まれたよそよそしいものだ。

ここ最近は久しく見ておらず、俺の知るいつもの様子と雰囲気が違って、どうにも違和感を覚えてしまう。

取材を始めてからも彼女のその言動は終始変わることはなかった。

話を聞いて真面目な仕事ぶりはとても伝わってきたが、彼女が口を開けば開くほど、不思議なことに妙な違和感は強くなる。

 ……なんだか知らない人を相手にしているみたいな気分だな。

そう、来栖さんは親しげに微笑んではいるのだが、それがかえってよそよそしい。

いつもの物怖じせずズバズバ言う姿の方が断然いい。

 ……来栖さんは取り繕わず素でいる時の方が魅力的だな。


スタッフ3名から仕事内容について、印象的な乗客について、緊急事態が発生した際の対応についてなどを幅広くヒアリングし、メモ帳に書き留めながら、俺は内心でそんなことを考えていた。


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