訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
実際は何度となくあの声を耳にしたことがあるのだが、まるで初めて聞いたと言わんばかりの口調で私はにこりと明るく笑う。

円香さんの興奮ぶりに合わせて、声のトーンをやや高めにして話しに付き合った。

 ……まさか小説家が葉山さんだったとはね。完全に素を知られてるだけに、外面を作ったモードで接するのはすっごくやりづらかったんだけど!

そもそも私が取材を受けることに決まったのは、ほんの数日前のことだ。

広報から依頼があって、たまたま該当日が地上勤務日だった私と円香さんに白羽の矢が立った。

守秘義務の関係なのか、小説家が誰かは明かされず、それが花山粧だと知らされたのは直前のことだった。

長嶺さんから聞いた時はこんな偶然があるのかと本気で驚いた。

 ……葉山さんとは先週会ったばかりだけど、その時にはそんなこと一切口にしてなかったのに。

まぁ仕事のことだから機密の関係上言えなかったのかもしれないし、もしかしたら葉山さんも想定外だったのかもしれない。

なんとなく後者の可能性が高そうだなとは思う。

なにしろ葉山さんが会議室に入室してきた時、他の人からは分からない程度だろうが、ほんの僅かばかり声が上擦っていた。

たぶん私があの場にいて驚いたのではないだろうか。

 ……明後日に会うし、その時に直接聞いてみよう。

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