溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
夜のアトリエは、静かな熱を帯びていた。
机の上には、焼きかけの試作品やメモが並び、わたしはエプロン姿のまま、材料の比率をノートに書き込んでいる。
「……バターを少し減らして、レモンの香りを強くしてみようかな」
独り言のようにつぶやく声が、窓の外の夜風に溶けていく。
その横で、煌はキャンバスの前に座っていた。
けれど筆は動かず、視線はただ――わたしの横顔を追っていた。
「真白、ずいぶん集中してますね」
「え?」
「さっきから、ずっと眉が寄ってる」
指摘されて、わたしは慌てて笑った。
「……ごめんなさい。次のイベントのこと、考えてて。規模も大きいみたいだから、今までより“ちゃんとしたもの”を作らないとって」
「ちゃんとしたもの、ですか?」
「はい。見た人が“このお店、覚えておこう”って思えるようなもの。せっかくチャンスをもらえたなら、全力で応えたいんです」
煌はその言葉に、ふっと目を細めた。
まるで、眩しいものを見ているように。