溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「え……」
「無理に来てほしいわけじゃ、ないんです」
彼は、少し照れくさそうに笑う。
「でも、あなたが“あの味”をくれた人だから。見てほしいんです。僕が、あの時から描き続けたものを」
その言葉に、心臓が痛いくらい鳴った。
「……でも、その味はわたしが作ったものじゃ……」
「それでも、僕にとっては特別でした」
柔らかく、けれどどこまでも真っ直ぐな声。
言葉を返せずにいる間に、神城さんは軽く会釈をして言った。
「じゃあ、また。……今度は会場で、お会いできたら嬉しいです」
そう言って、彼は静かに店を出ていった。
カラン――。
鈴の音だけが、静かな余韻を残した。
しばらくの間、わたしはチケットを見つめて立ち尽くしていた。
白い紙の上に浮かぶ名前が、やけに眩しく見える。
「真白ちゃん、それ……」
背後から声がして、慌てて振り返ると芙美子さんが立っていた。
興味津々といった顔で、手に持つチケットに目を留める。