溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「この街の明かり、好きなんですよ。昼間よりも、何かが隠されていく感じがして」
「隠されていく……?」
「光がやさしいときほど、人の影って濃く見えるでしょう?」
その言葉に、胸の奥がざわりと波打った。
彼の言う“影”が、何を指しているのか――考えたくなかった。
「……今日のあなたを、どうしても描きたくなりました」
「え?」
「朝の光より、今のほうがずっと綺麗ですから」
彼の瞳が、まっすぐにわたしを見つめた。
笑っているのに、どこか危うい。
けれど、拒む理由も見つからない。
「……ありがとうございます」
やっとそれだけを返すと、神城さんは満足したように微笑んだ。
「また来ます。――今度は、あなたの“次の味”を見せてください」
夕風が吹き抜け、ポスターがかすかに揺れる。
神城さんの背中が人混みの向こうに溶けていく。
その光景を見ながら、なぜだか少し、胸が痛くなった。
残されたケーキの香りと、胸の鼓動だけが、夜の中に静かに残った。
(……次の味、か)
小さく呟いた言葉が、胸の奥で温かく響く。
その響きの奥に、ほんの少しだけ――怖さにも似た甘さが滲んでいた。