【十六夜月のラブレター another side】イケメンエリート営業部員入谷柊哉くんは拗らせすぎてる
「ショックって。先に私の事雪見だって言ったのは入谷さんです」

「だから、そのことはもう謝ったじゃん」

あれ? なんでこんなことになってる?

「ごめんなさい、私が悪かったです。もう行きますね」

彼女が笑顔で言う。それは心を施錠した証。

イヤダ、イカナイデ。

離れていくのが怖くてうしろから強く抱きしめた。

「ごめん。怒らないで」

「怒ってないです」

もう何を言っても俺の言葉は届かないだろう……それならいっそのこと……。

抱き締めたまま耳元で囁いた。

「そんなに言うなら雪見ちゃんと付き合うよ。これでいい?」

「それなら嬉しいです」

ねえ、今、君にも聞こえた? 

俺の心の折れる音。

抱きしめている腕を外し振り返った彼女をまっすぐに見つめる。

「最後に一つだけ教えて。過去とか関係なくて普通に会社の先輩として出会ってたら、俺に興味持ってくれてた?」

彼女の瞳が揺れたように見えた。

「私と入谷さんは北極と南極くらい正反対の位置にいます。だから、興味を持つことはないです」

「……わかった。俺でも落とせない女がいるなんていい勉強になったよ。いろいろごめんね。それじゃ」

どんな状況でも繰り出してきた鋼の営業スマイルで何もなかったように立ち去る。

振り向いてももう彼女はいないだろう。

だから絶対に振り向かない。

これ以上俺だって惨めになりたくない。

さようなら、俺の満月。
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