【十六夜月のラブレター another side】イケメンエリート営業部員入谷柊哉くんは拗らせすぎてる
会社では相変わらず彼女に話しかけなかった。

それに俺自身、頭の中がまとまっていなかったから。

お仕置きデートを延期したいと伝えたその瞬間、もう二度と二人で会えなくなる気がする。

あの夜、雪見ちゃんと何を話したの?

今、何を考えているの?

俺のこと、どう思ってるの? 

少しは心を、開いてくれてた?

悶々と考えているより確かめずにいられなくなった俺は、終業後彼女のマンションへと向かっていた。

俺より先に会社を出ているはずなのに、彼女はまだ帰宅していなかった。

マンションの前で帰りを待つと、30分ほどして紙袋を手に提げた彼女が歩いてきた。

「入谷さん! どうしたんですか?」

「この前君が淹れてくれるコーヒー、飲めなかったから」

彼女がそっと、手に提げていたコーヒーショップの紙袋を身体の後ろに隠した。

「ごめんなさい。今、豆切らしてて」

あ、嘘、吐いた。

彼女の小さな嘘が俺の猜疑心を呼び起こす。

「そっか。あのさ、雪見ちゃん、俺のこと何か言ってた?」

「今度の週末、会うことになったって」

「ああ、話したいことがあってね」

「よかったですね! やっと雪見に会えて。このまま二人付き合っちゃえばいいのに。私、応援します!」

「え?」

「だって、雪見も入谷さんもずっとモテてきててお似合いだから。そしたらお仕置きデートも終わりにできるし」

彼女はいつもこうやって平気で俺を傷付ける。

こんなに大切に想っているのに……。

「それ、本気で言ってるの? そんなに俺とのデート、嫌だった?」

「あ、そういう意味じゃなくて。雪見と入谷さんがうまくいってほしいから」

「なんで?」

「なんでって、入谷さんは私を通して雪見を見てたんでしょ? 顔の造りだけは一緒だから」

「俺のこと、そんな風に思ってたんだ。なんか、ショック」
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