メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 見るからに得意気に胸を張り、悪魔もとい御影は口の端を持ち上げた。

「そ、そんなことできるんだ……」

 記憶まで書き換えられるなんて、悪魔って本当にどこまで恐ろしいんだろう。
 自分の知らないうちに、大切な思い出に手を加えられたとしても気づけないんだ。

 内心身震いしていると、ふと身を起こした彼が一拍置いて口を開く。

「ともかく、いいか。どんな結末を選ぶも……カナ、すべてはおまえ次第だ。全力で足掻けよ。俺と契約したことは後悔させねぇから」



 チャイムが鳴った。
 4時間目が終わり、昼休みに入る。

 ここまで、取り巻くすべてが見覚えのある場面ばかりだった。
 最初の既視感がどんどん現実に追いついてくる。

 事故も“今日”の記憶も、本当は鮮明な予知夢だったんじゃないかと思ってしまうけれど、そうじゃないことは砂時計や悪魔の存在が証明していた。

 それだけに、このままぼんやり過ごしていたら再び郁実があんな目に遭ってしまうことは明白だ。
 一緒に帰るとして、何がなんでもあの道と時間帯は避けないと。

(そもそも今日、郁実が死んじゃう運命なら……目を離すべきじゃない)

 死因は事故以外だってありうるかもしれないのだから。

 そんなことを考えながら、1階にある購買を目指して階段を下りていく。
 混み合う踊り場にさしかかったとき、ふいに声をかけられた。

「あ、春野さん」

 まばらな話し声にあふれていても、不思議とその声ははっきり聞き分けられた。
 柊先輩はわたしと目が合うと、いっそう微笑みを深める。

「偶然だね。購買行くの?」

「あ、はい。何か甘いもの食べたくて」

 ご飯は弁当があるのだけれど、何となく甘いものが欲しい気分だった。

「あるよね、そういうとき。でももう結構売り切れちゃってたから残ってないかも」

 どうやら彼は購買帰りのようで、困ったように眉を下げる。
 昼休みは特に混むから仕方ないとはいえ、がっかりしてしまった。

「そっか、ひと足遅かったですね……。休み時間に買いにいけばよかったなぁ」

「あ、じゃあこれあげるよ」
< 10 / 61 >

この作品をシェア

pagetop