メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 端的(たんてき)な答えを受け、柊先輩が小さく息をのんだ。

「おまえも契約するか? 魂と引き換えに望むものをくれてやるぞ」

「……冗談じゃない。きみになんか魂を売ってたまるか」

 さすがに“悪魔”なんて危険な響きには気圧(けお)されたようだったけれど、先輩の態度は一貫していた。
 彼にとって御影はあくまでも敵みたい。

「そいつは残念だな。面白くなりそうだったのに」

「ねぇ、御影……。天使とか悪魔ってそもそも何なの? 砂時計が別ものってどういうこと?」

 肩をすくめる彼に尋ねた声は図らずも不安気になった。
 ふ、といつも通りの笑いを返される。

「その質問もいまさらだけどな。ま、いいや。それなら砂時計の話をしてやるよ」

 そうは言ったものの億劫(おっくう)そうな、緩やかな足取りで再びふちに寄って座り直す。

 あまりに堂々としていてふてぶてしいくらいなのに、いつしかその存在感の大きさに安心すら覚えている自分がいた。

「実はな、世界線は同じでも時間軸がふたつあるんだ。砂時計を基準に」

「それは……天使の時間軸と、悪魔の時間軸?」

「その通りだ」

 どうやら柊先輩も知らない話みたいだった。
 彼の推測に頷き、御影は続ける。

「天使の砂時計は天使の時間軸、俺の砂時計は俺の時間軸でしか効果を発揮しない」

「……そっか。だから、御影は“昨日”砂時計をひっくり返したんだ。わたしを助けたってそういう意味だったの?」

「ああ。砂時計が使えなくなるって言ったのもそういうからくりだ」

 何となく全貌(ぜんぼう)が見えてきたような気がする。

 “世界線は同じ”ということは、見ている世界はわたしも柊先輩たちも同じなんだ。
 起こる出来事も待ち受けている結末も。

 ただ、身を置いている時間の流れがちがう。

 悪魔の砂時計を一度でも使えば、悪魔の時間軸で進むことになるのだろう。
 逆もまた(しか)りだけれど。

「で、ここからがややこしい話だ。時間軸がちがうから、タイムリープの仕組みも実はちがってる」

 黒い手袋をつけた彼の人差し指がぴんと立てられる。

「俺のタイムリープは“崩壊”を繰り返してる。巻き戻ってはいるけど、毎回別の世界線からやり直すことになるわけだ」

「どういうこと……?」

「パラレルワールドって聞いたことあるだろ。砂時計を使うと、いまいる世界が崩壊する。それで、別の並行世界に移動するんだ。そこで同じ一日をやり直す」
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