メリーでハッピーなトゥルーエンドを
確かにややこしい話だった。
きっと並行世界は無数に存在していて、いまも合わせ鏡のように同じ時間が流れているのだろう。
だけど、砂時計をひっくり返すといまわたしのいる世界線が壊れてリセットされる。
だから別の並行世界に飛ぶことになる。
砂時計のお陰でその世界での時間が巻き戻っているから、いつも同じ“今日”の朝から始まっていたんだ。
何だかゲームのセーブファイルみたい。
ひとつのファイルでエンディングを迎えるとデータがリセットされて、別のファイルでやり直し────。
「イメージできるだろ? カナ、おまえは何度も“崩壊”を見てきたよな」
「確かに……いつも世界そのものが壊れてく感じだった」
空間にひびが入って、ばらばらに崩れ落ちていく世界の欠片。
それと一緒に刹那の間、わたしも常闇をさまよう。
そういえば、あの闇は時空の狭間だと言っていた。
あの落下は、並行世界への移動そのものだったのかもしれない。
「なるほど。天使の砂時計とはちがうね。こっちは“崩壊”というより……言うなれば“再生”?」
青薔薇の咲く砂時計を取り出した柊先輩は、それを眺めながら言った。
御影がゆったりと口を開く。
「再生、か。うまいこと言ったもんだな」
「なら、この砂時計は並行世界に移るわけではないってことか」
「さあな、俺は知らねぇ。興味があるならあいつに聞いてみれば?」
本当に知らないのかどうか分からないけれど、少なくともいまそのことについて話す気はないみたい。
確かに気にはなるものの、もっと気にかかることがわたしにはあった。
「郁実は……いま、どういう状態なの? 砂時計は壊れたって言ってたけど、記憶とかは?」
想定通りの問いだったのか、御影は顔色ひとつ変えない。
「あいつが繰り返してたタイムリープの記憶は、あいつ自身にも残ってねぇ。けど、俺が口頭で伝えてる。本来の運命のことも」
「本来の、って……春野さんが亡くなるってこと?」
柊先輩が続けざまに尋ねる。
何気なく聞いたと思ったけれど、それにしては何だか隙のない声色だった。
(そっか)
少し考えると自ずとその理由に思い至った。
“本来の運命”という定義そのものが揺らいでいる。
わたしが死ぬか、玲ちゃんが亡くなるか、どっちが正しい結末なんだろう……?