メリーでハッピーなトゥルーエンドを
死んだら記憶を失う、と御影は言っていた。
生き延びたらどうなるんだろう?
全員が全員、覚えているわけがないけれど、もしかするとわたしの知らない法則があるのかもしれない。
ほんのひと場面でも、うっすらとでも、記憶が残っている可能性は決して低くない。
少なくとも先輩は初めてじゃないと思う。
“今日”を生きるのも、繰り返すのも。
「どうかしたの?」
「忘れるなんてできないです」
「え」
驚く彼にわたしは言葉を繋いだ。
「一緒に帰りましょう。わたしも、先輩に聞きたいことがあります」
記憶があるのなら、これはきっと予想外の展開だろう。
柊先輩にとっても“変化“になる。
郁実のことは気がかりだけれど、この直感と手応えを無視することはできなかった。
彼と話さなきゃならない。
玲ちゃんのことも、“昨日”のことも、記憶のことも────。
この“変化”はきっと重大なヒントだ。
ここにこそ、シナリオを壊す鍵が隠されている気がする。
いっそタイムリープのことを打ち明けたら、先輩の力を借りることができるかも。
本当に記憶があるのなら、絶対に無関係じゃないから。
「御影」
先輩の後ろ姿を見送ると、わたしは虚空に向かってその名を呼んだ。
どこから現れたのか、応じるように気配が増したかと思うと隣に彼が立つ。
「なんだ、気づいてたか」
「うん、盗み聞きが趣味なんでしょ? 人の心の中まで盗聴してるし」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。俺さまがそばで見守ってやってるお陰で助かったことも多いだろ」
「……それはそうだね」
肩をすくめると、逆に御影はいっそう得意気に胸を張った。
“味方じゃない”と言いながら、まったくどうして誇らしげなんだろう。
「で、何の用だ? 俺のありがたみに気づいて崇拝したくなったか?」
「まさか。そうじゃないけど、お願いがあって」
そう言ってポケットから砂時計を取り出す。
指先でそっと薔薇をなぞりながら、こぼれ落ちていく砂を見つめた。
「聞いてたと思うけど“今日”はわたし、先輩と帰ることにした」
「ああ、それが?」
「わたしが郁実のそばを離れる間、代わりに御影が見守っててくれないかな」