メリーでハッピーなトゥルーエンドを
壮大な話にますます困惑が膨れ上がった。
天命だとか神の意だとか、わけが分からない。
そもそも彼女は誰で、いま何が起きているのか、それすら分からないのに。
「仕方ない、言い換えてあげる。あなたの妹は“生きるべき者”だってこと。そして、代わりに生き永らえたあの子は……“死ぬべき者”」
俺の困惑を察したというより、心をまるごと見透かしたような言い方だった。
心臓が重たげに沈み込む。
玲は生きるべきで、春野さんは死ぬべき……?
「ちょっと、待って。頭が追いつかない。そもそもきみは何者なんだ?」
「わたしは神に仕える使者。これも分かりやすく言えば……“天使”」
その言葉から受ける漠然としたイメージは、羽根以外に目の前の彼女からは感じられない。
慈悲やあたたかみという、一般的に“天使”と聞いて浮かぶ印象からは乖離している気がする。
だけど、不思議とその存在そのものを疑う気持ちは湧いてこなかった。
この奇妙な状況だとか、心を読まれたことだとか、それらが根拠になったわけじゃない。
ただ、彼女が玲の死を理不尽だと断言したことが、覆っていた黒い靄を晴れさせたのだ。
────やっぱり、玲が死ぬ謂れなんかない。
その死を美化して受け入れる必要も、仕方のないことだったと諦める理由も当然ない。
俺の感覚は間違っていなかったわけだ。
「これから運命の修正に向かう。ふいに大切な妹を失ったあなたにも、その権利を分けてあげる」
同情なのかそれこそ慈悲か、あるいは彼女の気まぐれか。
そんなことを考えていると、手の内で青い薔薇の花びらが輝きを放った。
じりじりと光で焦げていくみたいに眩しい。
「時を戻して正しい結末へ導く」
「時を……?」
おおよそ非現実的だと思ったけれど、いまさらだ。
この天使の存在からして信じるに値する。
むしろ、夢だろうと幻だろうと妄想だろうと何でも構わない。
玲が生きている時間に戻ることができるのなら、今度は絶対に死なせない。
「わたしが彼女を連れていく。あなたは、妹から目を離さないで」
清然と澄んだ声がやけに冷たく響いた。
“連れていく”とは、天国に、だろうか。
いずれにしても春野さんが亡くなるという意味だと悟って、図らずもぞっとした。
「分かった」
それでも、それだけだ。
彼女には悪いけれど、玲の命とは天秤にかけるまでもない。
何より、それが正しい運命なのだから────。
◆
「……ちゃん。お兄ちゃんってば」
そんな声にはたと我に返る。
目の前で不思議そうに玲がこちらを覗き込んでいた。
「玲……」
ふとあたりを見回すと、病院ではなく家の中にいた。
光の漂う玄関、卵焼きの優しいにおい……慣れた普段通りの朝だ。