メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 ────あのあと、視界全体が白い光に覆われてあまりの眩しさに目をつむった。

 気づいたらいまに至っていて、一瞬だけ意識が飛んだような感覚だ。

「まったく、寝ぼけてるの? ほら、今日は忘れないでね」

 なんてことないように流した玲は、いつも通りランチバッグを差し出してくる。
 そんな彼女を見つめたまましばらく何も言えなかった。

(本当に……)

 玲がここにいる。生きている。
 確かに時間が巻き戻ったんだ。

 とても非現実的で、何となく夢の延長線上にいるような感覚だけれど、この目が映す光景や玲の機微(きび)はリアリティにあふれていた。

 夢でも幻でも妄想でもないんだ。
 あの天使とやらは紛れもなく本物で、その力に疑いの余地もなくなった。

 ────あなたは、妹から目を離さないで。

 ひときわ鮮やかに蘇ってきた彼女の言葉が、深く胸に染みていく。

 絶対、死なせないようにしないと。
 片時(かたとき)も目を離すことなく、この手で守り抜いてみせる。



 一日中、気を張って過ごした。

 事が起きるとしたら放課後だと分かっていても、どうしても不安が拭えずに。
 時間があれば玲の様子を見にいき、元凶である春野さんがそばにいないか確かめた。

 余りある急な過保護さに困惑した玲には呆れられたものの、あんな未来を知った俺にじっとしていろと言う方が無理な話だ。
 慎重すぎるくらいで十分だと思う。

 ────玲とともに無事帰宅して、夕食をとったあとのことだった。
 クラスの友だちから立て続けにメッセージが届いた。

【やばい、駅で事故あったって】

【2年の女子がホームから落ちて、そのまま電車にはねられたってすごい騒ぎ】

【即死だったらしい】

 その一文に、心臓が(なまり)みたいに重い拍動を刻んだ。

 みなまで言われなくても、それが春野さんだということが俺には分かってしまった。

 偶然なわけがない。
 天使が宣言通りに“連れていった”のだ。

 正しい運命へ導き、死ぬはずだった彼女が本来の筋書き通りに命を落とした。
 そういうシナリオに書き換えたのだろう。

「…………」

 あえてそんな残酷な結末にしなくたっていいのに、と思う反面、これでよかったと安堵している自分もいた。

 可哀想だけれど、仕方がない。
 俺にとっては玲が生きていることの方が大事で、それこそが正しい“今日”にほかならないのだから。

 春野さんが亡くなったということは、これで玲が命を落とす原因も理由もなくなったわけだ。

(……よかった)

 天使のお陰で得たやり直しの機会で、どうにか玲を守り抜くことができた。

 たとえ春野さんに恨まれたとしても、この選択を後悔することはない。
 いや、恨まれる筋合いなんてない。

 これこそが本来の運命なんだから。
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