楽園を追う者たち
プロローグ

act1.【 叙事詩のプロローグに刻まれる瞬間だ!】

「おめでとうございます。あなたは、選ばれし者です。」

真っ暗で何もない空間のなかで男性の声が聞こえてきた。いや、聞こえてきたというよりも脳内に直接語りかけてくるような感じだ。言っている意味がさっぱりわからない。そもそもなんで俺はこんな真っ暗な空間にいるんだ。


遡ること少し前、午後6時の仕事終わり

「よっ! 悠希(はるき)!」

この声は、俺の同僚の生駒だ。こいつは飲むのが大好きで何年か前までは毎日のように飲んでいた。

「帰りが一緒なのは珍しいな。いつも飲んでばっかりなのに。」

「久しぶり!俺がまだ、帰るわけないだろ。これから飲みに行くんだよ、飲みに。一人で飲むのと何人かで飲むのどっちが好き?もちろん後者だよな(^o^)だ〜か〜ら〜一人だと寂しい今日こそは、飲みに行かない?\(^-^ )」

「何度誘われても行かないよ。」

俺は呆れた声で言う。1ヶ月くらい前は毎日この誘いがあった。最近は無くてほっとしてたが、また始まってしまった。もう懲り懲りだ。

「最近は家族と夜を過ごしたいんでね。」

「子供生まれてから変わりすぎでしょ( ͡° ͜ʖ ͡°)。前なんて毎日のように飲んでたんに。」

ここ数年の楽しみは息子と一緒に夜を過ごすことだ。仕事は辛くても、終われば息子に会えると思えば毎日が楽しい。会社の人にも最近笑顔が増えたなんて言われてる。

「じゃあな!イコちゃん。また誘ってくれよ。」

自分でもまた誘ってくれよなんて言うと思わなかった。久しぶりに誘われて嬉しかったのかな。

気づけば、駅の目の前の信号で待っていた。珍しく自分の周りには人がいない。青信号に変わり、不思議だなぁと思いながら横断歩道を渡る。渡ると全身に針が刺さるような感じがした。気になって横を向こうとした時、既に遅かった。目の前に車が迫ってきている。もう、逃げきれない。俺は死を悟った。

「俺、先に死ぬのか。もうすぐ会えると思ってたのにもう無理か………」

1秒にも満たない時間なのに何十秒も経ったような感覚だった。轢かれた時の感覚はほとんどない。そして気づいたらこの空間にいる。


「この空間はどこなんだ?」

「ここは【生死の狭間の入り口】です。気づいていないかもしれませんが、あなたは死の淵にいるのです。」

ここは夢の世界じゃないか、一瞬感じたが妙に現実味がある。あぁ、俺はもう死ぬのか。あまりのショックに俺は膝から崩れ落ちた。改めてこんなことを言われると死が恐ろしく感じてくる。

「絶望しないでください。あなたはチャンスを与えられたのです。どんな願いも叶うことができる【楽園】に行く権利を。」

「生き返ることができるのか?」

「もちろんです。どんな願いも叶うのですから。」

そんなことあるわけないと思いながらも、この人の話を信じてみる。

「じゃあ、その【楽園】ってどうやったら行けるんだ。教えてくれ。」

「必ずしも行けるとは限りません。あくまで行く『権利』があるだけです。行くためにはあなたのような選ばれた1000人の「プレイヤー」の中の1人が所持する「楽園の鍵」を手にいれて、【楽園への扉】を見つけなければなりません。」

ってことは、俺はこれから生死の狭間の世界で生きることになるのか。いわゆる異世界転生みたいな感じか。

「そして、この世界に入る前に貴方に聞きたいことがあります。貴方が欲しい特殊能力は何ですか?」

急に何の質問だ。と思いながらも考えてみることにした。
(欲しい能力かぁ………)
ふと中学生の頃を思い出す。
あの頃、アニメの影響で自分が思う最強のキャラをノートに描くのにハマっていた。その中でも一番好きだったのが 黒邪騎士(ダークネスナイト)。今思えばめちゃくちゃ厨二病な名前だが当時は本気でカッコいいと思っていた。描き始めてから1年くらいした時急に恥ずかしくなってきた。そこからはそのノートは引き出しの奥深くにしまい、一人暮らしを始める時に捨ててしまった。ノートを見なくなってから20年近く経っているというのに、黒邪騎士の能力がどんどん蘇っていく。元々は光の聖騎士だったが 黒邪龍(ダークネスドラゴン)が宿ったことで闇の力が使えるようになるっていう設定だった気がする。最初は光と闇の力の両方を使えるけど徐々に闇の力に蝕まれていく。

この能力のことを説明したが、恥ずかしすぎてほとんど覚えていない。

「分かりました。その能力であなたはこの世界で生きることになります。」

(嘘だろ。)
いい大人がこんな厨二要素満載の力を使って生きるのか。正直嫌だが知り合いに会うことはないだろうし別に大丈夫か。

「三日後にゲームは始まります。三日間の間に準備を整えてください。それではあなたを生死の狭間の世界へと連れて行きます。無事に【楽園】へとたどり着くことを願います。」

そう言った瞬間真っ暗な空間が真っ白な光に包まれた。


あまりの眩しさに目を瞑った。目を開けると森の中にいた。辺りを見渡しても見えるのは木と虫ぐらいだ。服装も轢かれた時のスーツのままだ。とにかく、森を出たいな。歩き続ければ出られるはずだ。

30分くらい歩いたがまだ景色は変わらない。体力ももう限界だ。どうやらこの世界に来ても体力は変わらないようだ。自分でも驚くほど衰えている。
数年前は毎朝ランニングしてたこともあって2時間くらいは歩けた気がする。
俺は休むことにした。
(そういえば小学生の頃はよく近所の森に入って探検とかやってたな。よく遊んでた奴らとはもう何年も連絡をとっていない。今は何してるんだろうな。)
そう思ったが俺はもう死んでるようなもの。連絡することすらできない。現世に戻ってからしたいことが増えたな。

「よし!このまま歩いて森を出よう。」

再び歩き出した。30分くらいしたらまわりが開けてきた。目の前には雲一つない空が見える。どうやらここは山の頂上らしい。

すると、後ろから突然立つのがやっとな暴風が吹いてきた。しかも結構長い。10秒耐えるのが限界だった。俺は10m近く飛ばされた。

砂埃が晴れると目の前には大きなドラゴンがいた。羽と背中は緑で腹のほうは茶色がかった白っぽくいかにもみんなが想像しそうなドラゴンって感じだ。

「チュートリアルボスといったところか」

恐怖よりもアニメやゲームの世界でしか見たことないやつが目の前にいるわくわくのほうが勝っている。こんなにわくわくが止まらないのはいつぶりだろうか。

「俺も能力(ちから)を解放しなきゃな!」

俺の能力は詠唱なくても使えたはずだが、せっかくだし詠唱してみるか。

「神々の光よ!我が聖剣との鎧に宿え!そして我が身に不死のご加護を!」

中学生以来の詠唱だった。現実世界でやるとめちゃくちゃイタい感じがするが、この雰囲気だとカッコよく感じてくる。すると、スーツだった俺の服装は中世ヨーロッパの騎士が纏っている甲冑に変わり、光を放っている。そして左手には盾を装備して、右手には自分の下半身くらいの長さの聖剣を持っていた。

ドラゴンと戦えることだけでなく、あの頃想像していた姿が現実になった嬉しさが合わさり俺の興奮は最高潮だ。

「さあ、ドラゴン!この戦いが……」

プロローグact1.【叙事詩のプロローグに刻まれる瞬間だ!】 —end—
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