真っ黒な先輩の溺愛なんて想定外です〜完璧な先輩に私の隠しごとがバレました〜
それから数日後。社内は、とある噂でざわついていた。
「ねえ、聞いた? 渡辺さん、異動になったんだって」
「聞いた聞いた。急だよね」
「なんか、風紀を乱してたからって聞いたよ」
「あー、わかるわ。いろんな女に手出してたもんね」
どうやら渡辺さんの手ぐせの悪さは、前々から有名だったらしい。「やっといなくなって安心した〜」なんて、ほっとしたように笑う声があちこちから聞こえてきた。
渡辺さんの異動の決定打になったのは、先輩の進言だったとあとから聞いた。
「俺は信頼されてるから」
と、ちょっと誇らしげに言っていたのは記憶に新しい。
*
「なに笑ってんの?」
「海斗さんのドヤ顔を思い出してました」
「なにそれ」
会社を出て、並んで歩く帰り道。
さっきまで職場の先輩と後輩だったのに、一歩会社を出た瞬間、海斗さんは“先輩“じゃなくて“彼氏“になる。
それが、なんだかくすぐったい。
「海斗さんは誰よりも頑張ってるなって思ってたんです」
「そ、頑張ってるんだよ」
「だから真っ黒だったんですもんね」
渡辺さんの異動の噂と一緒に、もうひとつの噂も広まっていた。それは──私と海斗さんが付き合っている、という噂。
もっとも、噂というより公認に近かった。
あの日の飲み会で一緒にいなくなったときから、みんななんとなく察していたらしい。恥ずかしくて照れくさかったけれど、それ以上に祝福の声が多くて素直に嬉しかった。
「なあ、絢」
「はい?」
「一応聞くけど、クリスマス予定ある?」
「え、い、いえっ! もちろんありません!」
「仕事終わったら、俺とデートな」
「……はいっ!」
冬の冷たい風が私たちの間を通り抜けていく。
けれど、隣を歩く彼のぬくもりが、それさえも愛おしく思わせてくれた。
今年のクリスマスは、きっと忘れられない日になる。