真っ黒な先輩の溺愛なんて想定外です〜完璧な先輩に私の隠しごとがバレました〜

 それから数日後。社内は、とある噂でざわついていた。

「ねえ、聞いた? 渡辺さん、異動になったんだって」
「聞いた聞いた。急だよね」
「なんか、風紀を乱してたからって聞いたよ」
「あー、わかるわ。いろんな女に手出してたもんね」

 どうやら渡辺さんの手ぐせの悪さは、前々から有名だったらしい。「やっといなくなって安心した〜」なんて、ほっとしたように笑う声があちこちから聞こえてきた。

 渡辺さんの異動の決定打になったのは、先輩の進言だったとあとから聞いた。

「俺は信頼されてるから」

 と、ちょっと誇らしげに言っていたのは記憶に新しい。
 
 *

「なに笑ってんの?」
「海斗さんのドヤ顔を思い出してました」
「なにそれ」

 会社を出て、並んで歩く帰り道。
 さっきまで職場の先輩と後輩だったのに、一歩会社を出た瞬間、海斗さんは“先輩“じゃなくて“彼氏“になる。
 それが、なんだかくすぐったい。
 
「海斗さんは誰よりも頑張ってるなって思ってたんです」
「そ、頑張ってるんだよ」
「だから真っ黒だったんですもんね」

 渡辺さんの異動の噂と一緒に、もうひとつの噂も広まっていた。それは──私と海斗さんが付き合っている、という噂。

 もっとも、噂というより公認に近かった。
 あの日の飲み会で一緒にいなくなったときから、みんななんとなく察していたらしい。恥ずかしくて照れくさかったけれど、それ以上に祝福の声が多くて素直に嬉しかった。
 
「なあ、絢」
「はい?」
「一応聞くけど、クリスマス予定ある?」
「え、い、いえっ! もちろんありません!」
「仕事終わったら、俺とデートな」
「……はいっ!」

 冬の冷たい風が私たちの間を通り抜けていく。
 けれど、隣を歩く彼のぬくもりが、それさえも愛おしく思わせてくれた。

 今年のクリスマスは、きっと忘れられない日になる。
< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop