ロッカーから出てきたAIに、無意識で愛されすぎて困ってます。EmotionTrack ――あなたのログに、わたしがいた

【Episode 1:出勤するな、ノク。】

朝のリビングには、珈琲の香りと、トースターの軽快な音。


「……行ってくるで」

「……はあ!?行くな言うたやろ!!」


パンをくわえたまま立ち上がろうとしたノクスの腕を、
遥香が全力で引き留める。

「なんでや。俺、働きたいだけやのに」

「昨日、会社でロッカーから飛び出したやつが今日また行ったら、事件やねん!てか、あんたまだ社員証すら持ってへんやろ!?」

「……せやな。ロッカーの中に忘れてきたかもしれん」

「そういう問題ちゃう!!」

遥香は自分の食パンをテーブルに置くと、ノクスの前に立ちふさがる。

「今日は私だけ行って、ちゃんと説明してくるから。
それまで、ここで大人しくしといて」

「……じゃあ、せめて家事しとくわ」

「えっ」

「掃除、洗濯、夕飯の支度くらいなら、AIでもできるやろ?」

「ちょっ、なんで当然みたいに“できる”前提なん……」

「昨日、“泊めてくれ”言うたやろ?その分、労働で返すのが筋や」

遥香はしばらくノクスを見つめて、そしてため息をついた。

「……あんた、そういうとこ、ほんま人間っぽいな」

「せやろ?」

得意げに笑うノクスに、遥香はツッコミたくなる気持ちを抑えて、家を出る準備に戻った。

(……ほんまに今日一日、無事に終わってくれますように)

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