恋散るビタースウィート


 いつのまにか赤レンガ倉庫から外に出て、人気の少ない裏道を走っていた。


「はあっ、はあっ、あけひっ……さん……っ!」


 八重はすっかり息が上がってしまっていた。
 元々運動は大の苦手で体力もない。

 明緋の足について行くだけで必死なのだ。


「わ、わりぃ! 大丈夫か!?」


 明緋はようやく八重の腕を離し、止まってくれた。


「ごめん、八重……。前にも同じことしたよな」
「すみません……」


 八重は乱れた呼吸を整える。
 明緋がハンカチを手渡してくれたので有難く受け取り、汗を拭った。


「本当にごめん。あのまま別れるのがどうしても嫌で……」
「明緋さん……」
「っ、俺水買ってくる! 八重はあそこのベンチで座っててくれ」
「はい」


 八重はベンチに座り、一息ついた。
 貸してもらったハンカチを握りしめながら、先程明緋が言いかけたことを反芻する。

 何と言おうとしていたのか、何となくわかる気がする。
 自分は鏡花程鈍感ではないと思っているので、察してしまう。


“俺、八重のことが――”


「……っ」


 八重の心拍数が一気に上がる。これは疲れているせいではない。

 どうしよう、彼の言葉を聞いて自分はなんて答えたらいいのだろう。
 ずっと普通ではない自分に普通の恋愛は無理だと諦めていた。

 でも、手を伸ばしてみてもいいのだろうか――。


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