運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
 大学での講義に比べたら、比較的簡単な授業で、セレナは難なくこなした。とりわけ歴史学は興味深く、講師がたじろぐほどに質問攻めにしたりもしていた。

 その様子を楽しそうに見守るアレクを、実はこっそり見るのがセレナの楽しみでもあった。

「最近、おまえはよく俺の顔を見ているよな」
「そ、そんなことないですっ!」

 無意識に、アレクをじろじろ眺めていたらしい。はっとしたセレナはとぼけたが、顔は正直に熱くなり、彼はくすっと笑う。

「俺の顔に何かついてるか?」

 彼はするりと美しい顔面をなでる。

「全然見てませんっ」

 言い訳をしても、視線が絡み合うだけで、それ以上の言葉が出ない。本当は、あなたの舌を見せてほしいと思ってることなども。

 アレクはふと立ち上がり、机の書類を手際よく片付けてから、セレナの背後に回った。上からのぞき込んでくる彼を、あごをあげて見上げる。

 肩に触れるアレクの手にドキドキする。彼がもう少し身をかがめれば、唇が重なり合いそうだけど、それ以上は近づかない微妙な緊張感がもどかしくもある。

「講義を受ける、おまえの真剣な顔は悪くないが、素直じゃないときもなかなかに魅力的だな」
「きゅ、急に何を言うんですか」
「急じゃない。前から思っていたんだ。おまえは表情をコロコロとよく変える。生き生きとした女は嫌いじゃない」
「綺麗な人は見飽きてますもんね」
「それは迷信だな。俺は……セレナより綺麗な娘を知らない」
「……冗談もお上手なんですね」

 可愛げなく目をそらすと、アレクが隣に腰かけてくる。ソファーの背に腕を乗せ、目を細めて見つめてくる。何を言っても、今は楽しくて仕方ないみたい。
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