運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
 遠くから、静かなワルツの旋律が聞こえる。本来なら今ごろ、アレクは意中の姫君とダンスをしているはずだったのではないか。それが、なぜこんなことになってるのだろう。

 戸惑いながらも、セレナは足をゆっくりさげた。すると、先ほどと同じようにすんなりと自然に動いた。まるで、何十回、何百回と踊ったことがあるかのように。

「うまいじゃないか」
「……あ、ありがとうございます」

 足を止めようとしたら、まだ満足していないとばかりのアレクに導かれ、旋回し、かすかに聞こえる調べに任せるように、リズムを刻んだ。

 落ち着いた足さばきとは裏腹に、胸は張り裂けそうなほど脈打っていた。心の奥の方が静かに燃え盛り、チリチリと焦げついているようだった。

 どうしてこんな気持ちになるのか、まったくわからなかった。それでも、優しく握ってくれる手のひらから伝わるぬくもりは、いつもの冷たい彼のものとは思えなくて、この時間がずっと続けばいいとさえ思っていた。

 踊り終えたあと、アレクは柔らかな視線を向けてくる。見つめ合う時間が長ければ長いほど、どうにかなってしまいそうで、セレナはそっとうつむいて身を引いた。

「……今夜はもう、誰と踊ることもないだろう」

 アレクは静かにつぶやくと、名残惜しそうに手を離し、きびすを返す。その背中が部屋を出ていくのを見送りながら、セレナはまだ心が揺らいでいるのを感じていた。
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