離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアが言葉に詰まっていると、フィリクスが静かに続けた。

「俺はこれからも、君と一緒にいたいと思っている。このまま……いや、できれば本当の夫婦として」

 わざわざ本当の夫婦だと強調するところに、フィリクスの本気さが伝わってくる。
 書類上はまだ夫婦だ。しかしこれは家同士の政略結婚。本人たちの意思などそこにはない。けれど――。

(旦那様は気持ちの上でも本当の夫婦になろうとしてくれている?)

 すっとフィリクスの手が伸びて、アリシアの頬に触れた。
 アリシアはどきりとしたが、彼の指先は優しくて温かくて、心地いい。

 アリシアは頬を赤らめたまま固まった。
 彼の手がそのまま髪のほうへ伸びて、その指先がやわらかく髪を梳く。
 アリシアは言葉に詰まり、ドキドキしながらぎゅっと目を閉じた。

「……か、考えておきます!」

 これ以上は恥ずかしいので、思わず顔を背けてしまった。
 ちょうどそのとき、会場の方から盛大な音楽が響いてきた。

「どうやらダンスが始まったようだ」

 フィリクスの意識がそちらへ向いたので、アリシアはほっとため息をついて肩の力を抜いた。

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