離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアはその夜一睡もできなかった。
 朝になってエレナが朝食を持ってきたが、ひと口も食べられないでいる。

「スープだけでも飲みませんか?」
「……ごめんなさい」
「昨夜は眠れなかったのですね」

 アリシアは椅子に座ったまま固まって動けない。
 目の前のスープがわずかに湯気を立てている。

「話したいことがたくさんあったのに……あのとき、旦那様の言葉を聞いておけばよかった……こんなことになるなんて……」

 アリシアは手もとに戻ってきたハンカチをぎゅっと握りしめている。
 エレナがそっとアリシアの背中に手を添える。するとアリシアはエレナの肩に顔を預けた。
 しばらくそうしていると、使用人のひとりが扉をノックして入室した。

「あのう、グレゴリー男爵様がお見えになっていますけど……」

 その言葉にアリシアはどきりとしてエレナを見つめた。
 エレナも眉をひそめる。

 グレゴリーは自身の私兵団を連れてきていた。
 彼はアリシアを見ると、いかにも残念そうな顔で言った。

「アリシア、このたびは大変だったな。だが、そう気を落とすことはない。実は侯爵閣下は私にある約束をしておられた。これがその書類だ」

 それはフィリクスの遺言書のようなものだった。

< 128 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop