離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 セインは邸宅内をぐるりと見まわしてから、再びグレゴリーに視線を向けた。そして、冷静に切り出す。

「これは男爵殿。こちらがお招きしてもいないのに、なぜ侯爵家へ?」
「くっ……子爵令息か」

 グレゴリーは自身より格上貴族の令息を前に少々怯んだ。
 セインはいつもの真顔というより、眉根を寄せて少し怒りを帯びた表情をしている。
 しかし、グレゴリーはすぐに口角を上げ、セインに向かって言い直す。

「私は侯爵閣下との契約に基づいてここへ来た。閣下が不在の場合、私が侯爵家の当主代理となることが決まっている」

 セインは表情を変えず、わずかに目を細める。

「勝手に屋敷の内装を変えろとは、契約書面に書かれていない」
「ぐっ……これは、そう準備だ。いずれこの屋敷を管理することになる私の……」
「少々気が早いのではありませんか? 男爵殿。あなた好みの内装にするなら、完全にこの屋敷の主になってからでしょう」
「う、うるさい! ただの侍従のくせに、当主代理に口答えするのか!」

 感情的に叫ぶグレゴリーに対し、セインは表情変えず、ただ静かに睨み据える。

「俺はあなたの侍従ではない。俺が仕えるお方はレオフォード侯爵だけ」

 セインは淡々とそう言って、グレゴリーの横を通り過ぎ、アリシアに向かって言った。

「奥様にご報告があります。お時間よろしいでしょうか?」
「ええ、私の部屋に来て」

 アリシアはそう答えて、ちらりとグレゴリーに目を向けた。
 グレゴリーは歯を食いしばりながらセインをじろりと睨んでいた。

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