離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 グレゴリーはしばし呆気にとられたが、すぐに顔を紅潮させ、怒りを露わにした。
 近くにあった椅子を勢いよく蹴り飛ばす。
 ガンッと激しい音を立てて椅子が床に転がる。
 アリシアはびくりと身をすくめ、そばにいたエレナはとっさにアリシアを守るように抱き寄せた。

「生意気なことを言うんじゃない!」

 グレゴリーの怒号が部屋に響きわたる。

「侯爵の死は事実だ! ここに死亡証明もある! お前がどう反論しようと、これが覆ることはない!」

 荒れ狂うような言葉にも、アリシアは必死で耐えた。震える足に力を込め、グレゴリーの目をまっすぐ見つめる。
 グレゴリーは息を荒らげながら、怒りの形相でアリシアを睨みつける。

「侯爵死亡の今、この家は私のものだ。お前に発言権などない。これは契約だ」

 アリシアはぎゅっと唇を引き結び、拳を握りしめる。
 その手はわずかに震えている。

(叔父様はこの日をずっと待っていたんだわ。侯爵家を乗っ取るために)

 グレゴリーの顔が権力に酔いしれた醜い仮面のように見える。
 その姿に、アリシアの胸には怒りが込み上げた。
 しかし、王印のある契約の前にはどうにもできない。

 あまりに理不尽なことに心が震える。悔しさと悲しみで涙がこぼれそうになるのを、アリシアは必死に堪えた。

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