離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「起きられるなら食事をするかい? 薬も飲んだほうがいい」

 老婆の差し出した器を受けとり、フィリクスはそれを口にする。しかし激しい苦味にむせてしまった。
 それを老婆は笑いながらフィリクスの背中をさすった。

「薬草をそのまま使っているからね。よその者にはキツイだろうが、よく効く。あんた、わりといい身なりだから中央の町の人間だろう?」
「……ああ、そうだ」

 フィリクスは険しい顔つきで一気に薬を飲み干し、器を老婆に返す。

「俺はどうやってここに?」
「うちの旦那が村の奴らと一緒に運んだ。一応この村の長でね。うちで看病することにした」
「そうか。世話になった。記憶が曖昧でな」
「だろうね。しばらく眠っていたが、意識が戻ったと思ったら高熱が続いて、やっと収まったんだ」

 フィリクスは断片的に記憶を手繰る。
 強烈に思い出すのは落石が起こったあの日のことだ。
 突然馬車の中で衝撃を受け、気づいたら自身は潰れた馬車の中に倒れていた。扉が歪んで壊れており、どうにかそこを抜け出した。
 幸い足腰を軽く打撲した程度で済んだ。
 しかし、立ち上がった瞬間、何者かの刃が脇腹を斬り裂いたのだ。

(あの落石も偶然ではなかった。俺の帰路を知っていた者が、計画していたのだろう)

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