離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 拍手や歓声、感動で泣く者の声が渦巻き、広場は震えるような熱気に包まれた。
 フィリクスはディーンの縄を解き、じっと彼を見つめた。
 その眼差しには厳しさではなく、静かな敬意が宿っている。
 フィリクスは真面目な顔で静かに告げる。

「君は実に勇気がある。尊敬に値する。民を守ってくれたこと、心から感謝する」

 思いがけない言葉に、ディーンは息を呑んだ。
 信じられないものを見たように目を瞬き、口を半開きにしたまま、言葉を失ってフィリクスを見つめる。

 フィリクスはそれ以上語らず、ディーンの肩を軽く叩くと、くるりと背を向けた。太陽の光を浴びてまっすぐ背筋を伸ばし、堂々とした風貌でゆっくりと歩き出す。
 ディーンは目を見開いたまま、その後ろ姿をじっと見つめた。

 人々の歓声の中を歩くフィリクスの姿。
 ディーンは歯を食いしばりながら俯き、ぼそりと言った。

「……なんだよ、くそっ。カッコイイな」

 そして、小さく笑った。
 悔しさと憧れが混じったような、不器用な笑みだった。

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