離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
「あらっ、伯爵様! いけませんわ!」

 エレナが声を上げながら、猛烈な勢いでアリシアのもとへ走り寄った。
 そして伯爵とのあいだに割り込むと、両手を広げて制止する。

「花嫁にとって、結婚式の前夜は心と体を整える大切な時間です。どうぞお引き取りくださいませ」

 伯爵は顔を引きつらせ、わかりやすく不機嫌な表情を浮かべた。

「なんだね、急に。アリシアは明日わしの花嫁になるのだぞ」
「ですから、前にも言いました通り、当日はとびきり美しい花嫁に仕上げなければなりません。そのために、今夜はおひとりで静かに過ごす必要があります」
「少しくらい戯れてもいいだろう!」
「いいえ、いけません。美しい花嫁には睡眠が重要です。眠れなければ最高に美しい肌を保つことはできませんから」
「むううっ……!」

 納得できない伯爵が不機嫌な顔でエレナを睨む。
 エレナはにっこりと微笑みながら一歩も引かない姿勢を見せる。

「伯爵様もご覧になりたいでしょう? とびきり美しい花嫁を」

 伯爵はぐっと堪えるように歯噛みし、拳を握りしめたままどうにか落ち着いた。そして険しい顔つきでエレナに告げる。

「とびきり美しくするんだぞ。できなければ、お前は解雇だけでは済まないからな」
「ええ、もちろんですわ」

 伯爵が諦めて出ていくまで、エレナは終始笑顔だった。
 そして彼が出ていったあと、アリシアとエレナは同時にため息をついた。

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